第20話
「そろそろ五時だな。沖田君そろそろ家に戻りたまえ。なんならおいしいラーメン屋でラーメンとチャーハンを奢ってあげようか?」
熊倉さんはそう言うが、流石にあったばかりの人にご飯を奢られるのはどうかと思った。
缶コーヒーは奢られたけど。
「いえ、いいです。家に帰りますね」
「そうか。さっき言った全国への出場権が与えられる地域大会に参加してみないか?」
「ええっ! いや俺恥ずかしい話ですが今まで大会とか出たことないし、自信が無いです」
「君なら優勝までいける……本当の格闘ゲームの魅力に気づくだろう……未知の世界に行きたまえ」
(本当にいけるのだろうか? 優勝すると?)
俺は考え込んだが熊倉さんは表情からして、真剣な熱いまなざしで俺を見ていた。
そして俺がよく行っている地元のアドアーズでその全国へ行ける関東代表の地域大会が開かれる時間が書かれた紙を渡してくれた。
「大会参加楽しみにしているよ。それじゃあまた今度」
「はい。失礼しました」
そう言われて俺は熊倉さんの部屋を出た。
帰り道で大会優勝の姿を想像して歩いて帰った。
あの時の『遊び』だったものが『本気』になりそうな変化がそこにあるのだろうか?
俺は何かに本気になれるのだろうか?
熊倉さんのオンライン対戦の時に思ったその変化のことを思い出して、そして考えた。
いや、きっとなれない。
家に着いた頃は夕日が沈んでいた。
※
「……てことがあって大会参加しようと思うんだけど、自信がなくてやめようかなって思うんだけど……大槍はどう思う?」
ゼルダもとい熊倉さんと対戦した次の日の学校での昼休みのこの時間。
俺はやっぱり朝学校に来たら、担任に昨日のサボりのことで説教された。
そのことを忘れるように、教室で苺パンを食べながら大槍と志穂に話した。
「昨日サボってたと思っていたら、そんなことがあったのか。まぁ沖田ならいいところまでいくんじゃんか?」
「私は参加してほしいと思うよ」
隣の席の志穂がそう言っていちご牛乳を飲む。
「でも学校あるし、出れないな」
「昨日サボってたやつの言うことじゃないじゃんか」
これは大槍に軽く論破されたと言っても良いのだろうか?
まぁ、細かいことは良いか。
(大会か、気になるな)
大会に出たいけどやっぱり出ないという矛盾が生まれるが、自分でもどうしていいかわからない。
なんかそわそわする。
「沖田君はゲームに対しての貪欲さとか真剣さがあるから、大会に参加した方が良いと思うよ」
そんな時に志穂が笑顔でそう言う。
中学の頃から始まり現在も志穂が未だに好きだという気持ちが残っていたからかもしれないが、その地域大会に参加してほしいという期待に応えたいという気持ちが芽生えつつあった。
「真剣さと……貪欲さね……そりゃ確かにゲームに夢中だよ。夢中は努力に勝るってどこかの絵描きさんが言ってたけどさ。だけど参加なんてしても場違いな気もする」
しかし、しかしだ!
未知の相手と戦えるからゲームセンターはやめられない。
でもたかが遊びだ。
しかし趣味に本気になってみたい。
でもどこかでやっぱり何かに本気になれない気もする。
それが好きなゲームでもだ。
ああ、迷うな俺っ!
中学の頃に自分から告白してフラれた時の志穂の言葉を思い出し、芽生え始めていた気持ちがあらわれた。
参加してみよう。
志穂のために地域大会に参加したいと思った。
地域大会は優勝すれば、全国大会の出場権が貰える。
全国大会……日本全国の選ばれた強敵か……果たして俺はどれくらいの強さなんだろう?
俺のいる関東は大阪と同じくらい人口が多いし、ゲームセンターも多い。
つまりそれだけ対戦相手がゲームセンターというオフラインで戦える機会が多いということにもある。
そんなゲームセンターが多い関東で、俺の地元のゲームセンターのアドアーズで開かれる地域大会で関東の強敵が集まって、そして全国大会への出場をかけて対戦しに来る。
競争率は高いだろう。
そこから勝ち上がって優勝して、全国大会の強敵たちと戦うことになる。
おそらく全国大会に出れば、あの熊倉さんの話していたカルロと優勝したら戦えるだろう。
何故カルロと戦えるのかというと、熊倉さんがくれた地域大会の紙に全国で優勝すれば世界チャンピオンのカルロと対戦できるっと書いてあったからだ。
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