第19話
熊倉さんも凄いが、対戦相手の使うキャラも強い。
今まで俺は対戦開始から、好物の焼きビーフンのことを考え続けていたら相手は倒れていたこともあった。
それと体力をある程度削って、このキャラがもう全部弱キックだけで倒せそうな気がしたこともある。
さらにレバーを回してボタンを押して瞬きを数回した後に、相手はすでに倒れていたこともあった。
一回だけアドアーズで電源消されるまでゲームして、電車がもう終電過ぎていた時間になっていたこともあった。
そんな遅い時間に徒歩で帰ったのだが、今でも住所が変わっていなかったので電車は使わないくらい家が近かったのが救いだった。
そしてその後は、あまり思い出したくもないが、家の玄関前で親父が腕を組んで顔面に血液が集まったように顔を真っ赤にして「中学でこんな時間に帰るとは10年早いわ!」 っと怒られたこともあった。
これも中学の頃だが、一回だけどうしても倒せないやつを相手にお年玉の一万円を両替機で100円玉を100枚にして、その相手があきれるくらいに100円玉を入れ続けて挑戦し、最終的に勝ったこともあった。
そんなことは中学1年から通っているアドアーズでの店内対戦であった出来事だった。
小学生の頃は家庭用のウルフォ1と2を遊んで、ゲームセンターデビューしたのはウルフォ3稼働初期のロケテストの頃からだ。
確かその頃はプロの試合とか大会とかに興味がなかったので、熊倉さんのことを知らないのは当然と言えば当然だった。
そういった出来事がありながら今までそれなりに格闘ゲームをやってきて、理論とか強さとか上手さがわかってきたけど、今日この映像を見てこれまでにあった俺の格闘ゲームの常識を壊された。
その理解できないハイレベルな戦いに思わず口に出た。
「なんだよこれ……わけがわからねぇ……」
とにかく口では言いにくい凄い戦いだった。
まるで鬼と悪魔が試合をしている修羅の国のようにも思えた。
熊倉さんは俺にコーヒーの缶を渡して、俺の横に座った。
「今見ている決勝戦の映像で私と対戦している相手は、カルロというアメリカ生まれの全国一位の少女だ。この時はまだ13歳だが、今は16歳で君と同い年くらいだろう。たまに日本のゲームセンターに現れては、負けなしで戦い続けて店の電源が落とされて閉店になるまで100円だけで過ごす格闘ゲームの頂点に立つプレイヤーだ」
「16歳? そんな凄いやつが俺と同い年?」
俺が途中まで見ていた対戦映像が終わり、選手の姿が映る授賞式の画面に切り替わった。
その時に映った画面にはツインテールの黄金のような色をした髪に、青色のビー玉のような瞳をした身長が小さい少女が映った。
その少女は感情を表に出さないような無機質な表情をしている。
そしてピンクの色を象徴しているワンピースを着て、トロフィーを左手に持ち、右手で握られていた炭酸飲料を飲んでいる。
授賞式中なのに飲み物を飲んでいるのは、マナーが悪いというのが第一印象だった。
この女の子が俺と同い年で全国一位?
嘘だろ?
こんなに差があるなんて、同じ人間なのに勝てる気がしない!
熊倉さんとカルロは画面で戦って、カルロが体力ギリギリで熊倉さんを倒した。
ん?
まてよ。
このカルロって女の子……割と最近どこかで見たことあるような……。
「あっ!」
思い出した。
日曜に母にスーパーに買い物行った時に、フランクフルト食べさせた外人の子じゃないか!
「どうしたんだね?」
「あ、いえ、このカルロって女の子。前にスーパーに行っている時に出会ったんです」
「そうか。彼女は日本が好きだし、英語も話せるが帰国せず、アメリカの学校に行かずに日本の親せきがいる家に居候して、日本の学校に通っているんだ。それと彼女の家は金持ちだな。この地元の大きな家があるんだが、そこで居候しているよ」
そうだったのか。
俺世界一のゲーマーにフランクフルト食べさせたのか……そして俺は調子こいた盛り過ぎなトークでサインをしてやってもいいとか言ってったのか……クッソ恥ずかしいことしたな。
そう思ってから、次に地元にいるということを聞いて、なんかチャンピオンに親近感が出た。
「沖田君。今ではまだまだだが君の格闘ゲームの今後のセンスはこのカルロと同じくらいだろう。今度の金曜日のアドアーズの全国大会へ行ける地域大会に出ればいい成績を出せると思うんだ。いや、もしかしたら地域大会で優勝して全国に出場できるかもしれない」
いやいやありえない。
映像で見た熊倉さんのレベルの高さじゃ俺なんか場違いだ。
最初に家でオンライン対戦した時も、アドアーズのゲームセンターで同キャラの時の対戦もかなり手加減してたんだろう。
そう思えるくらいに映像で見た熊倉さんとカルロの戦いはレベルが高かった。
だが一瞬だけトップゲーマーになった自分を想像してしまった。
この映像で見た2人より強くなれる?
熊倉さんがそういうから?
可能性があるということか?
そう思うと体が震える。
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