第18話

 その証拠に大きな大会の試合が収録されたブルーレイや動画などで、ゼルダという名前は最近のしか見てないが見たことがない。


 だからそんな無責任なことが言えるのだろう。


 知らない人の家に行って、いきなり怪しい黒人とか現れて誘拐とかになるんじゃないのか?


「大丈夫だ。取って食べたりはしない。ついてきてくれ」


 熊倉さんはそう言って、後ろを向いて階段まで歩く。


 どうする?


 このままだと俺はさらなる強さを手に入れられなくなるんじゃないのか?


 もっと……今よりもっと強くか……。


 本当にゼルダもとい熊倉さんの言ったようにプロゲーマーになれるんだろうか?


 答えは俺より強い熊倉さんが知っている。


 怪しさはまだ残るが、行ってみよう。


 そう思って、俺は熊倉さんに着いていった。


「ちなみに君と同じキャラクターでの私のランキングだが、聞きたいかね?」


 歩きながら熊倉さんが振り向かずに話す。


 俺はちょっと気になったので聞いてみた。


 何故なら最初に対戦した時にスコアポイント、ランキングなどを見ずにゼルダという名前に注目していたので、細かいところまで見ていなかったからだ。


「あのキャラだと全国何位なんですか?」


「私はメインキャラがいるにはいるんだが、他のどのキャラもそれなりに使えるんだ。何故メインキャラでなく、この前のオンラインの時とは別のキャラを使ったかというだね」


 なんだか長い話になりそうな気がしたので、返事をしながらしっかり聞くことにした。


「ええ、何故ですか?」


「君のメインキャラでもあるが、私にとってはサブキャラでしかないキャラを何故使ったかわかるかね?」 


「わかりません」


「それは君と同じキャラで実力差をはっきりとわからせるためにあえて選んだ」


 ああ、なるほど。


 家庭用の時に俺が選んだキャラを俺が乱入する前に使っていたのは、そういう意味があったからか。


「だが、さっきの対戦で選んだ君と同じキャラはそんなに使わないし、アーケードでのスコアは家庭用と別々になっているからね。君の選んだキャラでは私はアーケード版では1129位だ」


「……さいですか……あれで1129位かよ」


 それを聞いて、ちょっとショックだった。







 熊倉さんの後についていって20分が経った。


「沖田君。私の家に着いたぞ。あがってくれ」


 そこは老朽化した木造のアパートだった。


 そこに熊倉さんは入って、一階のドアを開けて部屋に入っていった。


 俺もそのまま開いたままのドアから部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかける。


 部屋はデスクトップパソコンと小さな冷蔵庫と木造の引き出しとゲーム機にテレビが置いてあって、それ以外は畳が敷かれて風呂場とトイレが一緒になっている。


 キッチンは綺麗に食器が並んでいた。


 全体的に無駄なものがなく質素な感じだが、俺は輝き続ける金色の置物達が目に入った。


「これはなんでしょうか?」


「ああ、ゲームの大会のトロフィーだよ」


「えっ……こんなにたくさん……凄い!」


 金色のトロフィーに今より若い熊倉さんのトロフィーを持ったゲーム大会で撮られた写真があった。


 上を見ると、高級そうな額縁に賞状が入れられている。


 おそらくこれもゲームの大会の優勝者への賞状だろう。


 なんでこの人さっき俺が言ってたブルーレイとかで収録されている最近の大会の映像に出てないんだ?


 かなり昔の大会の優勝者とかかな?


 謎は深まるばかりだ。


「大きな大会のチャンピオン戦の決勝の映像もあるんだが、見るかい?」


 熊倉さんはそう言って、木造の引き出しから一枚のブルーレイより一世代前のデジタルビデオディスクを取り出した。


 そしてディスクを再生機の役割も果たす俺の家にもあった馴染みのあるゲーム機に入れる。


 俺は座布団に座って、映像が再生されたテレビ画面の対戦動画を見る。


「冷えた缶コーヒーを持ってくるから、その映像を見ていてくれ。ちなみにそれが最後に出た私の試合だ」


 熊倉さんがそう言って、台所の隣にある小さな冷蔵庫を開ける音が聞こえた。


 俺は大会の映像に夢中になって見ていた。


 そこにはさっき俺と戦った熊倉さんの使ったキャラとは別のキャラが戦っていた。


 このキャラは確かウルフォ3でしか登場していないキャラだった気がする。


 時期的にもこれはウルフォ3稼働時代の、おそらく最初の頃に開かれた大会だ。


 この時は俺は確か、中学生の頃のはずだ。


 懐かしいけど、それは今は置いておこう。


 大会の決勝戦の対戦映像だったが、見ていると俺なんかでも解るハイレベルな戦いだった。


 言葉に出来ない何かが、この対戦であった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る