第17話

 乱入するんじゃなかったぜ。


 挑戦状叩きつけられて負けるとかカッコ悪いな。


 テンションがグッと下がった。


 そして100円無駄にした。


 ついでにお腹も減った。


 学校終わるまでハンバーガー屋でハンバーガーだけ頼んで、席に着いたらスマホでゲームでもやって放課後まで時間潰すか。


 もしくはこの後に学校行くとか?


 途中から学校に行くわけだから、なんて先生に言い訳しよう?


 道路で老人が倒れていて一緒に救急車に乗って動揺してて、学校側に連絡するの忘れてたとか?


 いやいやいや、ないないない……当然説教コースになるわな……。


 じゃあハンバーガー屋に行くか。


 明日親父と先生のダブル説教確定だな。


「しかしさっきの対戦……あの坊主の腕も凄いが……あの姉ちゃんの腕ももっと凄いぜ」


「これはどうみても上級者同士の戦いに見えたな」


「そうだな。いわゆる神試合ってやつか?」


 ギャラリーの声で負けたことを再認識させられる。


 俺はなんて無駄な時間を過ごしたのだろう。


 登録したカードが排出され、取って財布に入れる。


 俺はやる気を無くしてアーケードコントローラーの袋を左手に持って、カバンも右手で持ってその場から去ろうとした。


「待ちたまえ」


 その声に振り替えるとゼルダもといさっきの女性が、ゲームを止めて俺の前に自分のおそらく仕事などでも使っているであろうカバンを持って笑顔で俺を見ている。


 知らない人に話すのはよくないが挑戦状の一件もあるし、学校の午前の授業に今更間に合うわけでもないから話すことにした。


 志穂以外の女性とは話したこともないが、大人の女性とは話すのは初めてだから緊張する。


 香水のいい匂いがする。


「君が苺大将君だね。私はゼルダもとい名字は熊倉だ。君の名前は?」


 名前を言われて言うべきか言わないべきか悩んだが、対戦を通してこの人はかなりやり込んでいる。


 対戦した時ウルフォ4を好きなプレイヤーだということが、あの試合からビンビンと伝わっていた。


 名前と言ったが、名字だけなら別にいいだろう。


「俺? 俺の名前は沖田」


 そしてちょっと決め顔を作ってこう言った。


「沖田薫です」


 あっ、うっかり名前まで言ってしまった。


 その言葉に熊倉といった人は黙り込み、腕を組んでしばらく考え事をするしぐさを見せ、やがて目をキラキラさせながら俺を見た。


 なんだろう?


 今のちょっとカッコつけたつもりなのに外したのかな?


 この人俺の名前を聞いてからは黙ってばっかだし、変な人だな。


 まあゲームやるやつなんて大抵変人が多いしな。


 俺もそうだと思うと少し悲しい気分になる。


 そうだな……これはいわゆる……ブーメランってやつだな。


「君はプロゲーマーになれるかも知れない」


「えっ?」


 突然何を言い出すのだろう?


「は、はぁ……プロゲーマーっすか……そりゃ凄いっすね」


 プロゲーマーって俺の好きな格闘ゲームでお金が貰えるって仕事だよな?


 でも凄い強くなきゃすぐに引退とかして終わる仕事じゃん。


 そこに安定した収入もおろか、長く仕事が出来るという保証はない。


 そのプロゲーマー並みの腕前の熊倉とか言う人にさっき負けたのに、俺がプロゲーマーになれるかもしれないって?


 それはいくらなんでも非現実的な話だ。


 まだ勉強して東京大学か早稲田大学を受験して、合格する方がそれよりも現実味がある。


 まぁ、それも今の俺には雲をつかむような非現実的な話ではあるが……学力的に考えて……。


「もし君にプロゲーマーになりたいという気持ちがあれば、今から私の家に来てほしい」


「えっ?」


 熊倉さんは嵐でも来たように次から次へと突拍子もないこと言いだす。


 これって逆ナンとかじゃないよな?


 いや誘拐とかの犯罪の匂いもするな。


 どうしよう? 


 これはひょっとすると事案かも?


 いやいや違うだろう。


 プロゲーマーになれるかも知れないと言っているから、たぶんプロゲーマーのなり方を教えてくれるとかだろう。


 この話の流れからそれが妥当だろう。


 でも今の俺にはそんなの夢物語じゃないか。


 だがプロゲーマーになった自分を一瞬想像してみると、お金ももらえて好きな格闘ゲームばかり出来るようになる。


 好きなことを仕事にして一生それで生活していける人間は一握りだが、だが……仮にもしなれる可能性があるのなら……俺はどうするだろう?


 それが人生で一瞬のチャンスだったとして、俺はそれを掴むのか?


「……」


 俺は黙って考えていると、熊倉さんがニヤニヤしながらまた話す。


「学校をさぼってまで格闘ゲームに没頭して、この前の全国10位の私のサブキャラでいい勝負をしてプロゲーマーになるくらいの実力を持っているんだ。もっと強くなってみないか、沖田君」


(強くなるねぇ……そんな簡単に強くなれたら俺は別のこと……例えばさっき考えたように勉強で頑張って東大合格する方が断然楽だろうね。まあ俺バカだから東大は無いだろうけどさ)


 まあ現実は厳しいだろうし、熊倉さんも強いといえば強いけど実績とか大きな大会とか出てないんだろうな。

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