第11話

 俺が小学生だった時に、その作文と絵を見た親父がゲームハードを買ってきてくれたっけ。


 そんで一緒に格闘ゲームをやってたな、親父は会社から帰って着替えずにスーツのまま俺と一緒に座って遊んでたっけ。


 いつからだろう?


 親父が俺と格闘ゲームを遊ばなくなったのは?


 わからない。


 たぶん中学に入学してからだろう、親父のことはもう忘れよう。


 そして中学に入る前まで、いつも日曜日には俺は必ず迷子になったあの場所であの人を待っていたな。


 あの一件以来その女性とは一度も再会できなかった。


 記憶が確かなら俺の両親といくつか言葉を交わして、帰っていったはずだ。


 俺がウルフォにハマったのもあの人のおかげなんだよな。


(今もやっているのかな?)


 俺は自分の部屋から出て、もう一つのテレビのある居間に移動した。


 そしてあの人のことをまた考えて、朝食が置かれているテーブルの前の椅子に座る。


(かなり昔だし、さすがにやってないか)


 そう思って焼けたトーストにバターを塗って、口に運んで食べる。


 俺みたいにずっと格ゲーばっかやってたらダメ人間になるんだろうしな。


 そう思うと今のうちに辞めた方が良い気もしてくるが、俺は辞めたくはない。


 ゲームのない人生は損をしていると思う。


 価値観は人によるけど、俺はゲームを辞めることは損をしていると思っている。


 だから俺はゲームを高校生となった今でも辞めていない。


 そう考えると俺は抜け出せないのかもな。


 まるで勝ったり負けたりを繰り返して、自分は才能があるのかどうか怪しくなり、今回は負けはしたが次の試合はまた勝てるかもしれない。


 という質の悪い希望を抱いて勝ち負けを繰り替えして、結果として辞め時を無くしたまま続けている状態だ。


 例えるなら、俺が中学の頃にそういう状態でついにレギュラーから外されたのに、まだサッカー部を続けている志穂からの噂で聞いた同じクラスだった阿部君のような状態かもしれない。


 阿部君と自分のその状態を同じだと重ねると、本当に質の悪い一種の病気のようにも思えた。


 それにしても昨日は寝る前にあれから20回くらいオンライン対戦してたんだっけ……勝ち続けていたけど、相手はどれも共通してキャラ性能などに頼った初心者から中級者の動きだったし、それで負けなしで20連勝したんだっけ……。


 そしてあのゼルダと戦った時のあの『遊び』だったものが『本気』になりそうな変化ってやつは、その20戦した相手達には生まれなかった。


 昨夜はちょっとゲームをやりすぎだな。


 そう思って、トーストを食べ終える。


 今何時だろ?


 テーブルに置かれている日にちなどが表示された四角いプラスチックのデジタル時計を重要事項だけ短時間で見た。


 日曜、9時35分57秒。


 なんで休日なのに目覚ましセットしたんだろう?


 あっ!


 この時間帯って確か、アドアーズのゲームセンターの開店時間だ!


 そういえば土日は何故か9時半だったな、開店するの。


 今日は日曜日だから、夕方まで外でいつものゲームセンターへ行くか。


「薫。ちょっと買い物行ってきなさい」


 そんな時にキッチンから母親の声が聞こえた。


 買い物か、すごく面倒だな。


「母さん、用事があるから……今日はそれはちょっと……」


「どうせ遊びでしょ? おつりはお小遣いにしても良いから」


「はいっ! わかりました! 行ってきます!」


 我ながら単純だが、最近ゲームを買って金欠気味だし素直に従おう。


 五千円札を貰って、俺はスーパーまで歩くことになった。







「買い物終わったな」


 4000円近くの食材の入った袋を持って、スーパーの近くの屋台でフランクフルトを買って椅子に座って食べようとしていた。


 座って食べる寸前に、誰かがどすんと音を立てて俺の隣に座った。


 誰だろう?


 こんな露骨に距離を近づけて話す奴いたっけ?


 もしかして知り合いかな?


 そう思って視線を横に移動すると外国人の女の子だった。


 ツインテールの黄金のような色をした髪に、青色のビー玉のような瞳が外国人だとわからされた。


 そして身長が小さくて、感情を表に出さないような無機質な表情をしている。


 なんか変なオーラを持っている気がした。


 俺は視線を外して、フランクフルトの先端をかじる。


(なんとなくこれは俺の勘だけど、ゲームとかやってそうな雰囲気があるなぁ)


 もう一度見るとピンクの色を象徴しているワンピースを着ていて、その女の子が椅子に座り続けて、しばらくしたら見事に『グゥ』っと空腹の音を立てている。


 そして俺の持っているフランクフルトをじっと見ていた。


「なんだよ? 欲しいのか? このフランクフルト」


 女の子はうんうんと頭を上下にふった。


 どうやら日本語は通じるようだ。


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