第10話
アドアーズは俺の通っている店内対戦負けなしの場所で、今日志穂達と一緒に行ったゲームセンターの名前だ。
(挑戦状か、受けてみる価値はあるかもな。明日学校だけどサボって行ってみるか)
相手がサブキャラでここまでとなると次元が違う感じがしたが、店内対戦ではアドアーズで負けなしの俺が負けるわけがない。
勝てる自信とゼルダってやつの顔を見たい好奇心で、俺は受けるとメールに書いて返信した。
今日はやる気がもう出ないので、オフラインにしてゲームハードの電源を切る。
(ゼルダに指定された日にアドアーズで対戦して、対戦後にまだ見ぬ未知の領域を経験するかもしれない。そして、もしかしたら目覚めるかもしれない……俺の天性の才能とかが……たぶん)
自分で思っといて何だが、天性の才能かぁ……あればいいなぁ……。
いや、あると思い込んでおこう。
それに格闘ゲームの対戦に慣れていけば、いつかは誰にも負けないようになる。
ゲームハードの電源を切って、ジャージに着替えてバタンと音を立ててベッドに倒れ込む。
10位の相手に負けたか、でもそれって結果的には俺は10位の奴といい勝負が出来たってことが証明されたわけだよな?
だとしたら俺強いし、ウルフォ4は全国レベルに通用するんじゃないか?
そう思って、横目でゲームハードのセガステーション3をチラチラと見る。
夕食食べたら、お風呂入って寝る前にもう一回ゲームしてみるか。
※
夢を見ていた。
それが夢とわかるのは、俺が小学生になって泣いている姿を今の高校生の俺自身が隣で見ているからわかった。
そうこれは過去に俺自身に起きた出来事だった。
デパートの屋上でゲームコーナーがあるところの前で、俺はあの時ゲームに夢中になって両親から離れてゲームを遊んでいた。
結果として両親は俺を探すことになった。
その時の俺はわずかな持ち金でゲームをして、お金がもう無くなってからは両親がいなくなった不安もあって、俺はあの時泣き出したのだ。
今思えば小学校低学年でそんなことをするのが、我ながら愚かな行為に思えた。
泣き続けていた俺に中学の制服を着たセミロングの黒髪の少女が話しかける。
「何を泣いているんだ少年? 迷子か?」
泣いている俺は、まるで折り紙をぐしゃぐしゃにしたような醜い泣き顔で少女に話す。
「パパとママがいなくなちゃった」
「そうか、とりあえずここを動かない方がいい。パパもママもおそらく君を探しているだろう」
少女は俺にティシュを渡し、子供の俺はそれで鼻をかんだ。
今思えばこの中学生の少女は誰だったんだろうと思う。
顔がぼやけていてのっぺらぼうのように真っ白だ。
きっと俺は顔が思い出せなかったんだろう。
泣き止んだ俺は格闘ゲームの筐体を見ていた。
少女はそれに気づき俺に声をかける。
「格闘ゲームに興味があるのかい?」
「うん」
「それじゃあパパとママが来るまで一緒に座って私がクリアしてあげよう」
そう言って少女は俺と一緒にゲーム筐体の2人分のスペースがある大きめの椅子に座った。
遊んだゲームは覚えている。
確か稼働してからまだ一か月ほどしか経っていないウルフォ1だ。
その少女はとても強くて、隣に座っている俺は泣くのをやめて夢中で少女の対戦を見ていた。
それが夢だから俺自身その少女がどういう戦い方をしたかは覚えていないが、確かとても強かったというイメージだけが残っている。
泣き止んだ方の俺は嬉しそうにその少女に話しかけた。
「お姉ちゃん凄く強いや!」
「君もこれくらい強くなれる日が来るよ」
「お姉ちゃん名前何て言うの? 僕の名前は沖田薫っていうんだ」
「そうか。沖田薫君というのか……私の名前は……」
※
その時にピピピっという単調な機械音で目覚ましが鳴った。
真っ暗な視界から明るい光が入り込む。
目を開くと俺はベッドの上に寝ていて、白い天井を見つめていた。
「んっ……なんだ、もう朝なのか……」
あの夢の女性は何て名前だったっけ?
確かあの後に親父が来て怒られたんだよな。
そしてあの後に3日後に小学1年の時の俺は、白色の画用紙で絵を描く授業でウルフォ1の対戦画面の絵を下手糞だけど、クレヨンで一生懸命描いてたなぁ。
なんで3日後って覚えているのは、描いていた画用紙の裏に日にちが書いてあったから覚えている。
その画用紙に描いた絵のタイトルは確か強い格闘家になるだったかな。
そして親が後ろで見守るあの授業参観の作文にはこう書いてたっけ。
僕はゲームがおかあさんとおとうさんと同じくらい大好きです。
ゲームと一緒に仲良くなって家でご飯を食べたり、遊んだりして、家族になってずっと友達と一緒に遊びに行くんです……って書いたんだよな……読み終わって椅子に座るとみんな笑ってたな。
今でも引き出しにその絵と作文は入っている。
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