第2話
先ほどの対戦からそう考えてみると、大槍もこの格闘ゲームではそれなりに強い方なのでは?
そんなことを思い始める。
(だけど大槍は守ることが多いし、思い切りの良さが欲しいところだな。まぁ守っていることが敗因なんだけど、俺が言わなくてもそのうち無意識にわかるだろう。それにしても初めて使ったこのキャラも悪くないな。あーあ、ゲームがテスト科目に出れば高得点出せるのになぁ)
対戦前に自販機で買った筐体の台に置いてあるジュースを飲んでそんなことを考えていた。
初めて使うキャラといえど、負けたくない気持ちが対戦中に手の震えで現れてしまった。
このゲームセンターのウルトラストリートファイト4という作品の対戦ゲームが俺に残ったたった一つの遊びでもあり、人と勝負出来る場所でもあるからそういう気持ちが出てしまう。
ウルトラストリートファイト4は通称ウルフォ4と省略されて呼ばれる。
初代からのシリーズをプレイしていたゲーマー達はこの対戦格闘ゲームをほとんどがそう言う。
そういえばもう一人の友達がいない。
(友達というか……あの時の出来事のせいで俺の中では友達には思えないが、友達ということで付き合っているし、今は友達か……まだ友達と思えない部分が多少残っているから俺はまだあの事を納得できないのだろうか?)
おっといかんいかん、考えないようにしないと。
そろそろ帰らなくてはいけない時間だし、どこに行ったのだろう?
俺は大槍に中学からの幼馴染みである女友達がどこにいるか聞くことにした。
「ところで志穂は?」
「高柳さんならむこうのクレーンゲームで遊んでいるって対戦前に言ったじゃんか。お前ってさ、ゲーム以外は物事を忘れがちでそこは本当にダメダメだよな。お前は忘れていると思うけど……そんなんだから入学時の4月の終わりで行われた俺らの高校独自の中学三年までの全科目の実力をみる実力テストの結果の合計点が俺より……」
大槍の話が長い話になりそうな気がしたので、言い終わる前に俺はクレーンゲームコーナーに向かって歩く。
「お、おい。その会話の途中から無視して自分勝手にしているとこ直さないと友達なくすじゃんか」
「お前ら二人いれば十分さ」
俺は振り向かずに少しキザったらしく言って、クレーンゲームコーナーに向かって早歩きした。
俺のすぐ後ろからおそらく大槍であろう人物の足音や気配を感じるので、後ろからついてきていると思い、そのまま振り向かずに目的地に進む。
後ろにいる大槍が何やら俺に対してペラペラペラペラと説教じみた長い話をしているが、俺は聞かないまま同じクラスメイトの志穂のいるクレーンゲームコーナーに着いた。
「あっ……もうちょっとで取れそう……ああっ! やった!」
聞き覚えのある声の方向を見てみると、クレーンゲームを遊んでいる志穂がいた。
志穂は漆黒とも言うべき黒い色の髪で、ポニーテイルの髪型をしており、普段から彼女の体全体からレモンの香りがいつもする。
そしてちょっと胸の大きい学生服姿の幼い顔立ちをしていて、身長が145センチ位の女の子である秀才のイメージが俺の中にある志穂に声をかけた。
「志穂、待たせたな」
彼女はクレーンで手に入れたであろうクマのぬいぐるみを抱え、嬉しそうな笑顔で俺に話す。
「全然待ってないから大丈夫だよ」
たぶん本当はずっと待っていて、俺は志穂に気を遣われたのだろう。
100%確信は持てないが、志穂の性格からして気を遣っている。
その性格もあってか中学からの友達の志穂はクラスの女子の間では人気者だった。
その上スポーツ万能で学業は秀才のレベル。
俺の通っている高校で秀才というと微妙な気もするが、志穂の偏差値は65くらいある。
なぜ偏差値65かというと、それは中学の頃の模試か何かでだったかで偏差値がわかるテストとか診断みたいなものがあった。
確かその時の結果で志穂の偏差値の数字が65くらいあったからだったか?
いや、違った。
そんなものは無かった。
確か偏差値65くらいの高校に受験して合格していたから、わかってたことだ。
普通ならその偏差値の高い高校に進学するだろう。
でも何故か俺のいる偏差値54の高校にも俺と一緒に受験して合格し、そちらを選んで入学している。
高校入学で志穂とついでに俺の後ろの席で寝ているふりをして携帯ゲームを遊んでいる大槍と同じクラスになった。
この入学時は大槍とは初対面で話していない。
大槍と話したのは同じクラスになって3日目だ。
どっちが話したとか内容は、たぶん内容はゲームの話だった気がするが他は覚えていない。
ただ大槍と一緒にゲームセンターに行くようになったのは、つい最近のことだ。
そして友達になったばかりだ。
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