コンテニュー・ハイセンス!
碧木ケンジ
第1話
俺は、何かに本気になれない。
友達も二人しかいない。
勉強とスポーツにもやる気が出ない。
夢中になれるのは……そうだな……夢中というのとは少し違う熱中かもしれないが、何故か昔から続けているものがある。
それは格闘ゲームかな。
そんな事を考えながら、俺が操作するのは対戦格闘ゲームのレバーとボタンだ。
高校の制服を着て、放課後こんなゲームセンターの一角でゲームをしてるのがばれたら、色々と問題はあるかもしれないが、俺はこのゲームセンターでの店内対戦では負けなしだった。
それくらい、俺はこのゲームに熱中していた。
熱中したと言っても、ゲームで行う『遊び』の中での熱中だ。
そこに『本気』はなく、ただゲームへの『遊び』が俺の中にあるだけだ。
熱中は本気とは、たぶん意味が違うかもしれない。
そして真剣と本気は同じ意味だが、ゲームに対しても他のことでも俺はやはり本気になれない。
ゲームなのでその遊びに熱中しているだけで、ただの時間潰しだ。
ただ時間潰しでのゲームが、今から大昔まで長く続けて遊んでいる。
その結果ゲームが上手くなった。
しかし、ゲームでいくら上手なっていても、学校の授業なんかダメダメな俺だ。
(こんなことをしてて、俺は……一体何をやっているんだろうな……)
そんな事を考えながらも、レバーを操作する手は止めない。
そうこうしているうちに、画面の中の対戦に決着がつく。
勝ったのはもちろん俺。
お互いの使うキャラクターの体力が初めは100あったが、俺がその相手の体力を攻撃してどんどん削る。
そして俺のキャラクターが遠距離攻撃をして、それが相手に命中して相手の体力が0になっていたから勝ったのだ。
遠距離攻撃とは弾撃ちと呼ばれる。
その弾撃ちは自分のキャラが遠くいる場合などで、遠くにいる自分がその距離で相手にダメージを与えることが出来る必殺技の一つだ。
俺のキャラクターの出した弾撃ちは一直線で進む球体で、相手に当たればダメージを与えられる。
このゲームは基本的に相手の体力が0になった時点で相手は負ける。
そして残った体力で立っているキャラクターは俺なので勝ちは勝ちだ。
それが今俺がやっている対戦格闘ゲームだ。
むこう側の席で対戦ゲームに応じてくれている坊主頭の友人が、悔しそうに「あー! また沖田の勝ちじゃんか! くっそー!」と大きい声を出す。
「YOU WIN」と表示されたその画面と同時に奥の筐体の坊主頭の友人が大声で俺の名前を言って、ゲーム筐体の椅子から立ち上がった。
そして俺に近づいて肩をポンッと叩いた。
「たまには手加減しろよな。俺の5連敗じゃんか」
俺は椅子から立ち上がって人の大声が聞こえる中で、坊主頭のクラスメイトに聞こえるように大声で返答する。
「大槍は手加減するとこっちがちょっと不利になるからな。舐めプはしない主義だし、そんなこと出来ないよ」
大槍と呼ばれた坊主頭の友人は左手で頭をかきながら何か言いたげに俺に言おうとしたが話さなかった。
おそらく自分の実力がほぼ互角だから手加減は出来ないと言われたことに嬉しさを伝えたかったが、上手く言えなかったのだろう。
だが俺はメインキャラ、つまりいつも使っている得意なキャラで戦っていない。
初めて使うキャラでほぼ互角だった。
なんとなく選んだキャラで大槍と対戦したが、色々と発見できてこのゲームへのやり込みの達成感と嬉しさが混じった気持ちで思わず表情ににじみ出る。
「案外このキャラも強いのかもな」
大槍に聞こえないくらいの声でぼそりと呟く。
そして大槍と対戦する前に、俺は筐体に100円入れた後に、あるカードをカード入れに差し込んで、対戦が終わった後に1Pボタンを押して排出されたそのカードを財布に入れた。
このカードはハンドルネームを決めた後に選択したキャラクターそれぞれにポイントが入るようになっている。
ポイントなどはインターネットを通じて、全国ランキングなどでスコアとして表示される。
俺のハンドルネームである苺大将と登録されているカードも、それぞれのキャラクターごとの別々のポイントでランキングを見ることが出来るが見ないことにしている。
理由は自分のランキングなんて興味がないからだ。
そんなランキングの数字だけで自己満足すると、そこから進歩しなさそうなので見ない。
なんとなく選んだキャラクターだったので、カードに登録されているいつもの専用キャラじゃない。
なので今回の入手ポイントは専用のメインキャラとは別々ということになる。
初めて使ったキャラだから当然0ポイントから始まったので、大槍への5連勝した分の低いポイントを貰った。
大槍もそういえば俺と同じでカードを使っていたな。
大槍側は専用キャラクターだったけど、俺はメインでない初めて使うキャラクターで互角だった。
(大槍ってもしかして俺より弱いけど、この格闘ゲームの実力自体は中級者レベルなんじゃないかな?)
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