第3話

 志穂はというとクラスに溶け込むように、色んな中学から卒業して同じクラスになった女子達と楽しそうに会話して馴染んでいる。


 俺は会話が終わったばかりの志穂に、少しいいかな? と小声で言って、次に当然の疑問を口に出した。


「今の高校よりも上の高校に合格したのに、何故そこに行かなかったの?」


 志穂はそれを聞いて、まるで朝の挨拶のように当然といった感じのトーンで答えた。


「大学だけは良いところに行けば関係ないから、どの高校に進学しても私の場合は問題ないよ。つまり大したことじゃないってことだよ」


「そうなのか? だけど……だけど理由はそれだけじゃ……」


 俺が言い終わる前にチャイムが鳴り、授業というかガイダンスが始まり、あの時は仕方なく俺は席に戻って座った。


 それから志穂にこの手の話をするのは出来る限りしないようにしようと思った。


 中学から知り合った志穂は高校生になっても、相変わらず誰にでも気さくに話しかけてくる。


 ゲームばかりの俺にもクラスの友達と同じ目線で話す。


 当然そうなると志穂は人気者になる。


 志穂とは違いバカな俺が同じ高校に入れたのは、志穂がよく俺の家にきて受験勉強の勉強会を中学3年の初めから行ってくれたからだ。


 おかげで一般入試後にしばらく日時が経過して発表される試験結果で合格が出来た。


 今でもテストや試験があると志穂が来てくれて、勉強を教えると言ってくれた。


 いつも優しくて笑顔が良かった。


 志穂は中学時代にクラスの男子から告白を受けることがそれなりにあるが、みんな断っていた。


 凄く頭のいい全国中学総合科目を扱う有名塾の模試結果で、4点だけ間違いがあって全国1位になっていた俺のかつての中学の隣のクラスの同級生の三谷ってやつも志穂に告白してフラれた。


 そして中学軟式野球の名投手で野球で有名な大阪の高校に推薦で合格した加賀という顔も男から見てもハンサムなやつで、性格も素直で真面目でまっすぐな嘘も苦手そうな善人、いや人間の鏡とも噂される男も志穂に告白した。


 当時隣の中学の加賀は俺のいた中学のグラウンドで練習試合した時に、志穂を見て、その場で呼び出し、いきなり告白したようだ。


 いきなり呼び出して告白ということも原因だが、加賀は志穂に速攻でフラれた。


 お調子者で話し上手で服や音楽のセンスも良いブラスバンド部のイケメンの塔矢も学園祭のライブの後で志穂を呼んで告白したが、フラれてしまったらしい。


 俺も彼らと同じようにスペックは高い三谷や加賀、塔矢に比べたらゲーム以外は何も良いところがなさそうな感じの男なのに、生意気にも中学の時に告白してフラれている。


 他にも色んな男子が告白したが、みんなフラれている。


 理由を聞いても、好きな人がいるからだとかで断られたという噂が流れるばかりだった。


 しかし何故か俺だけはその理由でフラれたわけではないようだった。


 俺がフラれた理由はこうだ。


「私は沖田君がゲームに熱中する方が好き。だから私とあまり遊ばずにゲームに集中してほしいの。デートでなくただのお出かけなら一緒に行くよ」


 そう言って志穂が立ち去った後に俺は茫然とその場で立ち尽くしていて、気が付いた時には雨が降っていた。


 デートでなくお出かけ。


 その意味は恋人のすることではなく友達のすること。


 フラれた。


 俺は確かにフラれた。


 そう思うと雨の中で流れる水と同じように涙が雨の水滴の中に入っていく。


 それ以来俺はゲームに熱中している気がする。


 志穂には俺とはただの恋人ではなく、友人でいようと言うことを辛かったが受け入れた。


 俺だけフラれた理由が他の男たちと違ったが、フラれたことには変わりはないだろう。


 ボクシングの試合で言えば志穂を相手に他の男はノックアウトだが、俺だけ判定負けみたいな感じだ。


 まあスポーツでカッコつけて例えようが、俺もフラれたことに変わりはない。


 そう、あの時の俺は志穂に告白してフラれたんだ。


 最初はそれが辛かったが、今はもう慣れるしかないという気持ちや、恋愛に対するあきらめの気持ちが混ざってこうして普通に話している。


 悲しいことだったが、ゲームに夢中になる方が自分にとっては良いかもしれないと思った。


 そして自分の中で長くゲームをしてきた経験からこう思っている。


(対戦すれば感じた事や思ったことを素直に言い合えるプレイヤーがいて、例え一回限りの相手でも対戦すればなんとなくどんな奴か解ったりして、そういうのはたぶんゲームセンターならではの言葉では説明しにくい独特の関係って言うか……答えになっているかどうかわからないけど……自分にとって息がつけるそういうものなんだ)


 そう思うようになったのはつい最近だ。


 ゲームが好きで続けてたら、なんとなくゲームセンターが家以外の居場所になった気がする。


 そして勝負事の対戦格闘ゲームで勝つことが俺の気分を良くさせる。


 ちなみに俺は高校1年生で、まだ5月の終わり頃なので、高校の環境にまだ馴染んでいない。


 中学から今までの学業は、志穂のサポートが無ければ並以下でスポーツはダメダメだ。


 我ながらよく偏差値54くらいの高校に進学できたものだ。


 というか進学できたのは志穂のおかげだ。

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