後ろのおじいちゃん



 今日は比較的涼しい日ですね。こういう時に体調を崩しやすいものです。気を付けないと。


 先日、後ろのおじいちゃんの救急車騒動のエッセイを書かせていただきました。あれから、ずーっとおじいちゃんが家にいる様子はなく、やっぱり骨折でもしていて入院だったのだろうなーと思っていました。


 すると、昨日。町内会の班長さんが別件で訪問してきた時に、「〇〇さん、家を引き払われたようですよ」と教えてくれました。遠方の親戚の方がやってきて、家の掃除をしたり、引っ越し作業をしたりしていったそうです。寂しいものです。表札には、本人ともう一人別な男性の名前が記載されていたので、きっと自分の親の代からその賃貸物件にお住まいだったのだと思います。住み慣れた家を離れるって、よくあることなんですが、その人にとったら一大事な話です。


 現在、厚労省は「地域包括ケアシステムの構築、深化」を推進しています。「我がごと丸ごと共生社会」の中の一旦です。これは厚労省の老健局がずっと前から推し進めている概念で、「要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を最後まで続けられることができるような地域を作っていく」というものです。


 今みなさんは、自分の選択によって、住まうところを決め、自分の選択によって生活を送っているのです。ところが高齢になってくると、自分の住みたいところを、子たちが決めたり、周囲が決めたりする、ということが起きてくるのです。信じられませんよね。「あなたはここに住みなさい」って言われるの。「年寄りなんだ。老いては子に従えだろう?」っていうご意見はあると思いますが、どうでしょうか。だからと言って、子の言う通りに生活できますか?


 高齢になってくると、自分のやりたいことが自分の意思で出来なくなる、ってことが多く出てきます。私はそれが歯がゆい。できるだけ本人の思いを大切にしてあげたいのです。けれども時には、専門職として「もう限界よ。施設行きましょう」って説得することだってあります。本人の思いと、現状とを天秤にかけて、最低限の生活がままならなくなった場合は、やむなく本人の思いを二の次にしなくてはいけない時もあるわけですね。


 そうならないためにも、やはり元気な内から、自分の老後をどうするのか、ということはしっかりと決めておいて、さらには周囲の人たちにお願いしておかなくてはいけません。元気な内は、「そんな話」って思うのでしょうけれども、若い人だって、明日どうなるのかわかりませんよね。


 地域包括ケアシステムは、植木鉢のイラストになぞらえて説明されます。植木鉢の受け皿のところが「本人の選択と本人・家族の心がまえ」。そう、一番基本となるのがそこ! なのです。自分の人生、自分で決めようよ。そのためには、本人の心がまえ、更にはそれを支える家族の心がまえも必要ですよ、って言うことです。


 本人だけが「こうしよう」って思っていてもダメってことです。周囲と合意形成をしておいて、自分の思いが叶うように協力してもらわなくてはいけません。


 みなさんは老後どこで過ごすおつもりですか?


 後ろのおじいちゃん。きっと施設かな? 身寄りがないようです。義理のお兄さんが県外にいると話していましたから。住み慣れた今の家を出た彼は、どんな思いでいるのでしょうか。


「施設に入ると終わりだ」と思っている方が多いです。でも、施設に入居する前の暮らしを見ると、本当に切ない気持ちになるケースも多いです。施設に入って「温かいご飯食べられて嬉しい」って笑顔を見せてくれた方もいます。いい施設に入れるといいな。


 在宅が全てではないけれども、住み慣れた家を離れるというのは人生の一大選択です。田舎の小さな町内会なもので、後ろの賃貸物件は三軒中二軒が空き家になってしまいました。人がいなくなるのって寂しいですね。施設に入る人はもちろんのこと、置いて行かれるほうも寂しい。これが年を重ねるごとに与えられる喪失感というやつでしょう。


 どこにいってしまったのかわかりませんが、新しい環境でもにこにこ暮らせることを祈っています。





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