ワイルド・パンダ
書けた! なんとか書けましたよ~。
水ぎわさん。
元ネタはこれ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452221290903720/episodes/16816700427793300354
パンダ様のご帰還だぜ!
***
パンダは走っていた。白と黒の毛並みが風に流れてゆく。息が上がる。目の前がゆがむ。しかし止まれない。なぜなら背後から——。
もふもふ追尾型ミサイルが追いかけてくるからだ!
「うふ……っ! な、なんなんだ! なんで、おれが——」
必死に走るパンダを追いかけるように走ってくる軽装甲機動車に乗った男が、拡声機でパンダに警告をした。
『どうだ。パンダ。お前の命は我々の手の中。わかったか? パンダよ。さあ、おとなしく我々の要求を受け入れないと、ほら——もふもふだけを感知して、地の果てまで追いかけていくミサイルが、お前のケツにぶち込まれるぞ』
——うう……。なんで。なんでこんなことに……。おれはただ、病気療養をしていただけじゃないかー!
パンダがこのハリウッド映画のワンシーンのような状況に追い込まれた理由はなぜか? それは一時間前にさかのぼる。
ここは上野動物園の地下20階。ここに、パンダの楽園『もふもふパンダランド』があった。日本にいるパンダは、友好国である中国から貸与されている。動物園の花形を担っているパンダたちもその流れだ。だがしかし——。ここには、その中国も知らない、日本で独自に管理されているパンダたちが飼育されているのだった。
「総理。水ぎわパンダですが、順調に体調が回復しつつあります」
ガラス張りの向こうに立つ男たちは、無心に笹を食べているパンダを見つめていた。
「そうかそうか。パンダは宝だ。我々の大好きなパンダを外交に使うなど、決して許されぬ。見ろ。あのモフモフ加減。特にあのパンダは背アブラがのっているおかげで、余計にころんとしていて、愛らしい」
鼻の下を伸ばしている親父になど興味はない。だがしかし、「総理」と呼ばれる人間は、定期的に変わるようだった。「今度の総理はあの男か」そんな程度の話だ。そんなことよりも、パンダにはやならければならないことがあったのだ。
——くそ。くそ不味いぜ。笹なんてよお。酒が飲みてえ。酒だ。あれさえあれば。後は……そうだ。カクヨムだ。あいつらが待っているんだ。おれは、早くあいつらのところに帰りてえ。
「歴代の総理たちが、このもふもふパンダランドの管理を任されているということは、今度は私がここの管理をするのだな? ——よし。あのパンダを総理官邸に連れて行く」
「え! 総理。それだけは——」
「総理としての初の指令だぞ。いいな? あのパンダを総理官邸で飼うのだ。いつもそばで見ていたい。そして、肉球をもふっとしてみたいのだ!」
人間たちがもめている様子を眺め、パンダは思った。
——
そこからのパンダは機敏だった。パンダはクマ科に属しているが、性格はおとなしくて恥ずかしがりや。他の動物を襲うことは滅多になく、逃げて隠れてしまうのだ。つまり——。
——そうだ。おれは機敏だ。逃げることにかけては誰にも負けん!
「お前。ここからでなくちゃいけないんだ。ここから出たら危ないんだぞ。お前の母国からも狙われるし。うう。僕は、僕は……お前が大好きだったよ」
いつもパンダの世話をしていた飼育員は涙を流しながらぎゅっと抱きしめてくれた。本当だったら、ここにいるのが一番いい。そんなことはパンダ自身が分かっているのだ。だがしかし。それでもなお、パンダは外の世界に出なければならないのだ。
もふもふの腕で、飼育員を抱きしめ返すと、彼は「ぐへ」っと奇妙な声を上げて動かなくなった。床に落ちた彼を見つめて、パンダは思う。「人間は柔でいけねえ」と。
がらんと開いたままになっている入り口に視線を遣り、パンダは一気に駆けだした。廊下には誰もいない。まさか、この温和なパンダが脱走を試みるなど、誰も思ってもみないことなのだろうか?
一目散に、エレベーターに駆け込んだ。しかし——ブー。ブザーが鳴ってエレベーターは動かない。
——ち、重量オーバーか! 背アブラが邪魔をしているというのか。
パンダは非常階段に回り込んで、必死に階段を駆け上がる。その間に、パンダの脱走に気が付いたのか。視界一面に真っ赤な警告ランプが点滅し、けたたましいサイレンが鳴り響いた。人の駆けてくる足音を後ろに、なんとか地上への入り口を突破する。
そこは動物園から離れた博物館の近くだった。公園に来ていた人間たちは、パンダの突然の出現に悲鳴を上げた。それと同時に空からの爆音。自衛隊の戦闘機F-2だ。
——なんて手際の良さだ! やべえ! あいつはやべえ。あれには、あれには……もふもふを追尾してくるミサイルが搭載されているじゃねえか!
バシュンっと風を切るような音に、ミサイルが発射されたと理解する。周囲を見渡しても、もふもふしているのは自分だけだった。もう後には引けない。感知され、ロックオンされたということは、地の果てまでも追いかけてくるということだ。
——ダメだ! おれには。おれにはカクヨムにいる奴らに、奴らに言いたいことが……。
パンダの脳裏には走馬灯のような映像が流れてくる。
——エロバン食らいそうになったっけ。まだまだ
ミサイルがもう眼前まで迫ってきた。無理。無理だ——そう思った瞬間。
「にゃあ」
パンダとミサイルの目の前に、一匹のもふもふ猫が躍り出た。首輪についた金色のプレートがキインと鳴った。
——こ、こいつは!
ミサイルはもふもふの対象物が二つに増え、誤作動を起こしたのだろうか。一瞬の隙が生まれる。パンダは目の前の猫を抱きかかえてから、そばの川に飛び込んだ。一瞬、対象物を見失ったミサイルはパンダを追ったが、そのままパンダの頭上を掠めて、河川敷の土手に激突する。
その衝撃に、周囲はパニック状況だ。あちこちで、車の事故が起き、行きかう人々は、わあわあと声を上げ、スマホで撮影をしたり、その場から逃げ出そうとしたりして、押し問答を繰り広げている。
川面を伝って燃え広がっている中、パンダは猫を抱えたまま、慎重に水面下を泳ぎ、そしてそっと離れた岸にたどり着いた。
「危なかったぜ……。なんだ。この猫。飼い猫か。お前のおかげで助かったぜ」
「にゃ~」
首輪についてるプレートには「A」と彫られている。
「なんだよ。おれの友達と一緒じゃねえか。な、『あいる』ちゃん」
猫はパンダの頬を一舐めすると、何事もなかったかの如く、姿を消した。その後ろ姿を見送り、躰をブルブルと震わせて水気をとった。それから、ゆっくりと歩きだす。
「へ。待ってろよ。みんな! パンダ様のご帰還だぜ!」
—了—
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