【続報】ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガの件「福島県の場合」



 令和三年四月一日——。佐賀県において、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人による佐賀県侵略の第一報が入ってから一週間が経過した。

 ここ福島県のとある森の中。UFOユーエフオーふれあい研究所では、その動きに対抗すべく、秘密裏工作が着々と進んでいた。


会津あいづくん。どうだね。宇宙戦艦AZUMAあずまの調整は」


 助手である会津は、プログラム調整をしていたパソコンから視線を外し、頭の薄くなった福島所長を見上げた。


「順調です。五時間もあれば起動できるかと思います」


「ふむ。それにしても、起動準備に一週間か。ちとかかりすぎではあるな」


「仕方ありませんよ。博士。なにせ三十年もかけて開発した機体です。旧式部分を最新式に交換するのに、少々手間取りました。」


 福島県では三十年前より、UFOユーエフオーについての研究が秘密裏に進められてきた。当時はUFOユーエフオー熱が日本全国で巻き起こっており、かなりの研究予算が付けられたものの、そのブームは過ぎ去り、現在ではスズメの涙ほどの予算でちまちまと開発を続けている状況だ。当時制作された部位は、そのまま三十年間放置されており、実質、実用化できるかと問われると、過去の遺物に成り下がっていたということはいがめないのだった。


 この三人の趣味活動的なレベルの研究だが、突如湧いて出たゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人のニュースのおかげで、牛歩戦術のように取り組んでいたプロジェクトが一気に花開こうとしているところなのだった。


「しかし、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人は一体、なにを目論んでいるのでしょうか? 佐賀を拠点とし、日本全土を掌握しようとしているのでしょうか? 例えそうだとしても、何故、佐賀県なのでしょうか? 所長はどう考えますか?」


 佐賀県の状況は、ここ福島県には詳細に伝わっては来ない。第一報以外、ほとんど情報はない状況なのだ。研究員たちは、それぞれの想像力に依存するしかなかった。


「佐賀県と言えば昭和の名作ドラマ『おしん』だ。ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人はおしんの無念を晴らすために佐賀県を選んだのではないかと、私は見ている。おしんは佐賀県に嫁ぎ、嫁いびりをされたのだ」


「な、なんと——。おしんですね?」


 会津は驚愕の表情を浮かべる。すると、そこにもう一人の助手である磐城いわきが駆けつけた。


「所長。『おたまじゃくし銀河』のンダ・ケンチョモ星人から連絡です。『ワレワレハ ウチュウジンダ。コチラノ ジュンビハ トトノッタ。オマエタチガ ホユウスル CIAノ キミツブンショガ カギトナル。 マズハソレヲ カイドクシ、 ハンヨウヒトガタケッセンヘイキ ツルガジョウ ヲキドウサセヨ』だそうです」


「汎用人型決戦兵器 TURUGAJYO鶴ヶ城!?」


「なんと! 鶴ヶ城があの汎用人型決戦兵器TURUGAJYO鶴ヶ城初号機だっということか。しかも、その鍵は我々が保有している例のCIA機密文書だと!?」


 磐城の伝言に福島はおでこを叩いた。


「迂闊だった! まさかそんな身近に初号機を起動させる鍵があったとは! よし。ンダ・ケンチョモ星人が地球に到着するまであと二十四時間。それまでに、機密文書——通称「死海文書しかいもんじょ」を解読し、初号機起動の準備に取り掛かるのだ!」


「しかし、所長——! 初号機のパイロットはどうするんですか?」


「大丈夫だ。適任がいる。こういう時のために、密に準備していたパイロット——雨タヌキだ」


 福島はそう言うと、ポケットから取り出したガラケーでどこかに電話をかけた。



「クンクーン。クウン、クウン。サンクス。雨タヌキ。——よし、連絡は取れた。一時間後には研究所に到着できるらしい」


 ガラケーをパチンと閉じた福島は、スクリーンに『雨タヌキ』のパーソナル情報を写し込んだ。


「雨タヌキ……」


 磐城と会津が見つめる先には、緑の葉っぱを一枚、おでこに張り付けた、目の周りが真っ黒の愛らしいたぬきが一匹、映し出されていたのだ。


「こんな可憐なたぬきが、初号機パイロット」


「このたぬきをバカにしてはいけない。遥か昔。織田信長の時代から、時の権力者たちを導いてきた百戦錬磨の手練てだれだ。おしんの怨念に対抗するには、これくらいのやからではないと、我々の未来はない——」


 福島はまっすぐに二人の助手を見つめた。


「いいか。これは佐賀を救う戦ではない。なのだ。福島県人は尊い。なぜならば、日本国にっぽんこくの中で『真の田舎者』は福島県人だからだ。青森、秋田、岩手、宮城、山形の人間たちも「なまっている」と言われているが、実はイントネーションは標準的だ。よって彼らが東京に出ると、言葉さえ訂正すれば、すぐに東京人に同化できる。ところが福島県人はそもそもが、イントネーションのなまりである。我々がいくら東京で、東京人に同化しようとも、すぐにしっぽを掴まれ、素性を暴露されるのだ。『あ、福島県出身ですよね?』、『え~、なんでわかったんですか? やだな~。ばれちった』。つまりだ。我々は日本で唯一無二の存在——真の田舎者、生粋の田舎者ということになるのだ!」



「そんな貴重で尊い我々が滅びたら、日本国内に『田舎者が存在しなくなる』ことになりますね」


 磐城の言葉に福島は力強く頷いた。


「そうだ。いいな。田舎者ブランドを守り、福島を守る。そのために我々はゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人、いや『おしんの怨念』と対峙せねばらないのである!」


「所長~! そんなことんだらごどになっだら、困っちまうべした。おれたちが、そだにすごいえらい眩しいまちぽい存在だったどは——! こんな非常に驚くべきおったまげたごどなんて、そうそうねえけどよお。所長! 大丈夫ださすけねぇ! TURUGAJYO鶴ヶ城初号機は、雨ダヌキ仕様に調整します!」


 突如、福島弁を口走った会津を見て、磐城も叫んだ。


腹が立つなごせっぱらやけんな! ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ・星人め! おれらの前で困ったあやまった顔をしても、もう遅せえぞ! この馬鹿者おんつぁまがあ!」


 ——我々は勝たねばならない。他県が滅びようとも、生き延びなければならないのだ。それが




 —続く……続かないかも——

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