読み始めた瞬間、格式高い明治文学のような気品を感じた。文章は徹頭徹尾丁寧で、良い意味で堅苦しい。推敲の数々が見て取れる秀逸な文章は、読んでいて清々しささえ感じた。
しかし、読み進めていくうちに、この作品は恋人に一人残された人物の、俗的な恋の話だと知る。すると、不思議なことにそれまで気品に満ち溢れていた序盤の文章が、まるで強がる子供が自分のボキャブラリーから、できるだけ賢そうな言葉を連ねた文章のように見えるのだ。
チョコミント、おはぎ、コロッケ、麦茶、歯ブラシ、そして避妊具。
人間の営みから一つの卓越したようなものの語り方をしておいて、その実この人物が言っているのは「君と生きていたかった」これ一つのみだ。
なんという矛盾。これでもかという程に、この人物は人間だった。
文章力、発想力、そして人間臭さ。その全てが合わさった非常に面白い小説だ。
執筆お疲れ様でした。