噂と案内

「お前、竜の巣を知っているのか?」

 女は彼に尋ねる。

「ああ、俺は街でその噂を聞いて、竜の巣を探しにこの森に来たんだ。」

「・・・そうか。・・・私も、その噂を聞いたことがあったんだ。」

 何だって!?彼は湧き上がる希望を抑えられず、立て続けに尋ねた。

「どこまで噂を聞いた!?竜の卵の話は聞いたか?」

「・・・その話は聞いていない。どんな話?」

 女は神妙な様子で話を聞いていた。

「竜の巣にいる竜は動きが鈍いらしく、竜の卵が盗めるかもしれないらしい。売ればかなりの値段になるようだ。」

「・・・そうなのか。」

 彼は勢いを止めずに話し続ける。

「なあ、街への道は分からないんだろ。だったら、その巣の場所を教えてくれないか。何となくどっちの方から来た、とかでもいいからさ。何なら、一緒に竜の卵を盗みに行こうぜ。お前も盗賊なんだろ。」

 女は何かを考えている様子だった。そして少し経った後、何かを決めたように、彼を見た。


「・・・いいよ、案内するよ。」

 女は無表情に戻っていた。温度を感じない目で、彼を見つめている。彼は、一瞬どきっとした。

「案内?お前、そこまでの道が分かるのか?さっきは、どこから来たのか分からなくなったって・・・」

「この森が一筋縄ではいかないと分かったから、巣らしきものを過ぎてからは、目印をつけてきたんだ。だから、その場所までは案内できると思う。街に戻ることができるわけではないけれど・・・。」

「・・・そうなのか。いや、それだけでも充分だ、ありがたいよ。」

 今の状況が何とかなる可能性があるんだ。なんだっていい。

「こっちだ。」

 女は歩きだす。彼は、空腹のことも忘れ、その後を追った。



◇◇◇

 


 竜の巣と思わしき場所には、あっけなくたどり着いた。道中は相変わらず生い茂った草木の中を進むこととなったが、女は目印らしきものを確認しながら進み、迷うことなく目的地に到着した。

「・・・ここか。」

 そこは、洞窟のような空間だった。目の前は山のような急斜面になっており、その斜面に直径2メートル程度の穴があいていた。穴の内部の壁面は石で固められ、奥へと続いている。洞窟は深くへ行くほど暗くなり、入口からでは奥が見えない。

「この先に進む。」

 女は躊躇なく洞窟に踏み入った。彼は、先の見えない空間に恐怖し、中に入るのをためらってしまった。

「おい、大丈夫なのかよ。」

「大丈夫。さっき見たときは奥に何もいなかったから。・・・どうした、怯えてるのか?ここに入らずに、また森に戻る?」

 女は振り返り、彼を試すように言う。

 しかし、森に戻るという選択肢はないことを、彼はうすうす感じていた。戻ったところで、どこかへ行くあてなどもなく、今度こそ孤独に飢えて死ぬだけなのだ。

「・・・いや、行くよ。行こう。」

 この状況が変わるのであれば、なんだっていい。いやむしろ、ここが本当に竜の巣なら、卵を盗んで、莫大な金を手に入れられるんだ。進む以外の選択肢なんかないじゃないか。

 彼は自らに言い聞かせ、女の後をついて、洞窟を進んで行った。


 しかし、彼がそれを後悔するのは、すぐのことであった。

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