第13話 二人は気付かない その3
↓前話の続きである。
『ざます』先生の名前がわからず、そして未だに——
『先生は名前を忘れられたことを怒っている』
——と勘違いしたままでいる
二人は、「はぁぁ……」と深く溜息を
「(どうしよ……。僕、もう既に帰りたいんだけど。委員会が始まってすらいない……というか、委員会室にすら入っていないけどさ。でも、仕事を全うしないで帰る訳にはいかないし、それにこの場を乗り切りさえすればいい。考えろ、考えるんだ、僕)」
悩む翔は脳みそをフルに回転させる。
裕福な家庭環境でないがゆえに数々のバイトをこなしながらも、翔はかなりの好成績を修める優良生徒である。
その優秀さは、中間試験と期末考査のその両方において学内順位一桁を全科目で取る程。
授業以外に、日々課題や部活に追われる高校生活の中でも、それらを放棄したことなど一度たりともない。
真面目で理想的な生徒と教師に認知されている男子学生。それが翔である。
そんな彼にとって、『教師に叱られる』ことへの恐怖は計り知れるものではなかった。
翔が『叱られないため』に自身の持ち得る限りの脳細胞を酷使するのは、当然と言えば当然と言える。
そうして、彼は導き出した。
ただ翔やメイが誤解しているだけで、特段問題などないはずの現況への打開策を。
「(委員会室に入って、もう既に中にいるであろう先輩方と話すことで、今の会話の流れを有耶無耶にしよう作戦――とかどうだろうか)」
案外と悪くない作戦を思い付いた翔であった。
「先生、そろそろ中に入りましょうか」
「……先生?ただの先生……ですか?」
――が。
翔は、本名には触れずに『先生』呼びをすることによって、名前を忘れている件を誤魔化しつつ作戦を敢行しようとしたものの。
本人から聞き返されたことによって、翔は大きくたじろいだ。
「(やっぱりダメかぁあぁああああッ!!)」
翔は窮地に立たされていた。いや、実際のところは窮地などどこにもないのだが、彼の中ではそうであった。
そんな状況では誰しも助けを請いたくなるものだ。
それは翔とて例外ではなかった。
「(どうしよう、どうしようッ!!これは、もう詰み……いや、待て。ここには僕だけじゃない。メイさんがいるじゃないかっ!!)」
翔は咳払いを一つして、チラチラとメイに目配せする。
メイはそのメッセージを受け取った。
「(どうしたのかしら、翔さんったら。突然、目配せだなんて……。もしかして、先生の名前を忘れている私を気遣って、
——僕が覚えているから大丈夫——
と言いたいのかしら。そうね、きっとそうよ。でも、それならもっと早く伝えてくれてもいいのに……。あ、そっか。私、翔さんに先生の名前を知らないこと言ってないものね。それでも気付いてくれるなんて流石、翔さんね)」
流石と言わざるを得ない程のポンコツが一人、ここに誕生した。
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