第3話 噛み合わせ

 ここ、河原木かわらぎ学園で最も盛り上がる行事といえば……


 ……そう。【ベストカップルコンテスト】である。


 そして、そこで優勝した者達には、問答無用で学園長によりとある責務が言い渡される決まりになっているのだ。


 それは『風紀委員会』への強制所属。


 という訳で、彼らは今、学園長室にて正式に任命式が行われている最中であった。


「では、大村おおむらかけるくん、大西おおにしメイさん、この度はベストカップル賞の受賞おめでとう。皆が皆、君たち程お似合いのカップルはいないと言っていたよ」

「ありがとうございます。僕は入学したばかりなので、そのコンテストがどういうものなのかはよくわからないですけど、何か大事な話があるってそのことですか?」


 しかし、そう言う彼の頭の中はそれどころではなかった。


「(えぇ!?またぼくたちカップル扱いされてたの!?ただ、家が隣同士で出席番号も近かったからよく話すだけで、別に好き合っている訳でもないんだけど!?いや、まぁ僕はメイさんのこと嫌いじゃないけど……でも、彼女からしたら僕はただの友達だろうし……)」


 しかし、学園長が彼の心境に気付く訳もなく。


「その通りだとも。君たちは文化祭の日に休んでしまったから、こんな形になってしまったが、表彰式をしたくてね。そして、歴代のベストカップル賞受賞者には、例外なく『風紀委員会』に入って貰っているんだよ。付き合いも長そうな君たちなら、息もピッタリ合って円滑に業務に取り組めると私は思う」

「そんな『風紀委員』なんて役職をもらえるなんて。嬉しいんですけど、私は少し恐縮してしまいますね」


 だが、そう言う彼女の心中は、そんな穏やかなものではなかった。

 

「(えぇ!?なんでまだ私たち付き合っていることになってるのぉ!?私たちは部員が一人しかいない部活に入部している者同士、助け合う形で仲良くしているってだけなのに!?いや、私は別に彼のことが嫌いな訳じゃないけれど、でも翔さんはただの仲間感覚だろうし……)」


 そして、『風紀委員会』というワードに彼もまた、心中穏やかでいられなかった。


「(ちょっと、待ってよぉ!!『風紀委員会』なんて聞いてないんですけどぉ!?僕は、そんな部活も委員会もやっていられる程時間ないんだよ!それに、夜の天体観測の時間も風紀委員の仕事が回って来て潰れてしまうと困るんだけど!!妹でさえも

——面倒――

とか言って一緒にしてくれなかった天体観測にメイさんが付き合ってくれるから、すごく楽しみな時間なのに!!」


 そして、彼女もまた『風紀委員会』というワードに食いついていた。


「(ちょっと待って。もしかして、このまま『風紀委員会』に入れば、私は学校でも翔さんと登山の話ができるんじゃ……。よし、良いわね!これは良い口実が作れるわ!!)」


「どうだろうか。できれば、君たちには快く『風紀委員会』に入って欲しいんだが……」


 その学園長のセリフに彼らは返した。


「すみませんが、僕はお断りさせていただきます」

「わかりました。私は翔さんと一緒に『風紀委員会』に入らせていただきます」


 最後は噛み合わない二人であった。

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