第2話 妹の前でも

 大村翔の家は決して裕福な家庭ではなかった。

 彼の両親は共働きをしていて、帰りは遅い。当然、彼自身もバイトで生活費を稼がなければいけない。

 それは必然的に家事が疎かになることに繋がっていた。


「まったく……、翔さんったらまたこんなに部屋汚くして……」

「ごめんね、メイさん。いつも掃除とかしてもらっちゃって」

「家事は趣味みたいなもんだし、なんだから別に気にしなくていいって」

「でも、迷惑かけてるからさ……」

「じゃあ、今度山行こうよ。道具は持ってるんだし」

「うん、わかった。でも、メイさんはそれだけでいいの?」

「いいのいいの。私は翔さんと一緒に行きたいなって思っただけだから」


 大西メイは父親の転勤により、ちょうど入学式の一週間前に引っ越してきたばかりだった。

 そして、このイチャイチャを繰り広げる本日は、季節にして初夏。

 つまり、彼らは出会ってからまだ3ヶ月しか経っていないのである。


 将来、おしどり夫婦になるのは確定だろうなと、大村翔の2つ下の妹、大村杏子あんずは思うのだった。


 そして、


『これ以上私の前でイチャつくな』


 と、二人のやり取りに舌打ちするのであった。

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