思い出
涼風歌
思い出
小さい頃から文字を追いかけることが好きだった。
絵本。
間違い探し。
教科書。
全部好きだった。昼間も寝る前もずっと読んでいた。
一番好きなのは小説。
主人公は小中学生が多かった。
想像もつかない展開で溢れている物語を脳内で思い描きながら、夢中で文字を追っていた。
気に入った本は何度も読み返した。
折角買ってもすぐに読み終えてしまうため、少し値段が高くて分厚いシリーズものの児童書は買って貰えなくなった。
いつか自分のお金で買って、続きを読もう。
完結までちゃんと読もう。
そうして、いつの間にか大人になった。
興味のない自己啓発本。
8000円もする参考書。
使い込んだ問題集。
正直あんまり好きじゃない。読まなければならないから読む。頭に叩き込む。
小説は今でも好き。
主人公は大学生か20代の若者が多いように思う。
アルバイトをして貰ったお金を使い、シリーズものを一気に買って積んだりもする。
ちょっと贅沢な気持ち。
ふと思い出して調べると、子供の頃に好きだったシリーズが今も続いていることを知った。
なんとなく、寂しさを感じた。
自分だけが成長して、読まなくなって。
それでも、大好きな物語は自分の知らないところで広がっている。
ずっと追いかけ続けなかったことを悔しく思った。
続きを読もう。
大人が児童書売り場に行くのは、少し勇気が要る。
随分昔に出た本だから、ネットの方が早く見つけられる。
ボタンを押した瞬間に料金が支払われて、翌日の昼には届いた。
少し前に買った革張りの一人用ソファで、淹れたてのコーヒーを飲みながら読んだ。
大きい文字は平仮名ばかり。ルビも沢山ついている。
次の挿絵までどれくらいか、ページを数えながら読んでいたことを思い出す。
年上だった主人公達はいつの間にかぐっと幼くなっていて、彼らの突拍子もない行動に笑ってしまう。
分厚い本はすぐに読み終えてしまって、親の気持ちを理解した。
何年も前から増えも減りもしなかった本の横に、読み終った新品の本を並べた。
大人になって良かったなと心の底から思えた。
思い出 涼風歌 @ryouhu-ca
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