③リバース・セレナード 後編
※4は本編『1-1 Étude~エチュード~』、5は『5-2 Romance~ロマンス~』の外山視点です。
4
明里とショウは同じ高校に進学した。三年生になり、2人はまた同じクラスになった。
新学期初日。転校生の話題で盛り上がる教室に、彼が現れた。
「
高峯アキラは向けられる好奇の視線が、全く見えていないかのように振る舞っていた。
ショウとは違うタイプの美形だ。二人の印象を異なったものにしているのは、目元の雰囲気だろうか。
その姿を見て、ようやく確信が持てた。
学生向けの各コンクールで華々しい成績を残している、高峯アキラ。彼の姿は映像で見たことがある。同姓同名の別人ではなかったのだ。
*
昼休みになると、明里は音楽室でピアノの練習を始めた。今週末にはコンクールの予選を控えている。
予選から本選までの期間があまり長くないため、明里は予選だけでなく本選の曲もすでに準備していた。
予選を通過できなければ元も子もないのだが、予選の曲をメインに練習しつつ本選の曲も弾くのは、ちょうどいい気分転換になる。
〈テンペスト〉を弾いている最中に、音楽室の扉が開いた。
演奏を中断して扉の方を確認すると、ショウと高峯アキラが立っていた。やけにキラキラとした二人組だ。
「あ、高峯くんとショウだ」
「外山。練習中だった?ごめん、高峯くんに学校の中案内してたんだ。すぐ出ていくから」
「いいよいいよ。気にしないで」
そう答えた明里の視線は、すぐにショウの隣へ移った。アキラはショウの隣で、愛想良く立っている。
「ねえ、高峯くんって中学一年生の時にジュニア音楽コンクール中学生の部で全国優勝してたよね? 名簿見た時すぐにピンときちゃった」
明里は兼ねてより高峯アキラの演奏を知っており、有り
なので明里はそのことについて、つい興奮気味に話した。
その途中、ショウの曇った表情が目に入った。居心地悪そうに、明里とアキラを見ている。相変わらず彼の表情は無防備だ。
(やめてよそんな顔。期待させないで)
二人が出ていき、明里は音楽室に一人残された。指を動かしながらも頭は別の思考に支配され、練習にまるで集中できていなかった。
明里の気持ちはともかく、ショウは明里に対して恋愛感情を持っていないはずだ。万が一なにか持っていたとしても、それは友人に対するものだろう。
ショウとどうこうなりたいとは、考えたことがなかった。
自分の手には届かない存在。
見つめているだけで満足。
近づきたいだなんて思っていない。
そう考えるのが気楽だ。
明里にはそれよりも気になることがあった。転校生、高峯アキラのことだ。
彼は多分、ショウに並々ならぬ思いを持っている。これは直感だ。根拠を問われても、自分もそうだからとしか答えようがない。
彼なら、ショウの殻を破ってくれるかもしれないという予感。
間違っていてもいい、的外れでもいい。ただ、願うだけなら。
(私には無理だったから…。高峯くん、お願い…)
5
ショウがコンクールの地区本選を見に来ると聞いた時、明里は驚いた。ショウはピアノを避けているのだと思っていたからだ。
当日は、いつものコンクールよりも気合を入れて髪をセットした。意外にも緊張はほとんどせず、心は限りなく凪いでいた。彼にだけ聴かせるつもりで〈黒鍵〉と〈テンペスト〉を演奏した。
しかし、彼の意思を変えたのは高峯アキラの演奏だったようだ。
アキラはついに、ショウをステージへ引き戻したのだ。
*
学校祭一日目の音楽室。
ディーラーの
状況はちぐはぐで現実味が無いが、これは偽りなく現実だ。
ようやく見られた光景。
目頭が熱い。油断すれば
ショウは昔から変わらない綺麗なフォームで、ふわりとした音にしっかりと響きを持たせて奏でる。
長いブランクがあっても、根本は変わってない気がした。
ぼやけた視界に映る、あこがれの人と出会った日の気持ち。
(やっぱりあなたに近づきたい)
一度目は彼の音楽に。二度目は彼自身に。
封じていた気持ちを、あの時以上の感情を持って、もう一度思い出した。
(次回『ガパオにエスコート』)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます