成長の途上にある思春期の少女と、自己を持たない不思議な妖怪のお話。
素敵なお話でした。ジャンルは現代ファンタジーですが結構ホラー風の味付けです。ドッペルゲンガーにも似た『カタナシ』という名の妖怪。不幸にもそれに出会い、また付け狙われることになってしまった主人公の、日常が侵食されていくかのような恐怖と苦悩。じわじわと迫る嫌な予感にハラハラしながら読み進めて、そして辿り着いた予想外の結末。ネタバレになるので触れられないのが残念ですが、この終盤の展開が本当に最高でした。
というわけで結末までは書きませんが、以下はややネタバレになります。
書かれていることというか訴えかけてくるものというか、いわゆる主題の部分が本当にストレートなのが好きです。爽やかな青春年代の日常と、その爽やかさと表裏一体の不安感。ともすればキラキラした明るいイメージばかりをもって語られがちな少年少女の『未来』は、でも当事者の視点から見たなら未踏の大地に一歩を踏み出すようなもので、つまり無限の可能性はそのまま先の見えない恐怖でもあるという、その成長期ならではの不安をそのまま体現したかのような設定。まだ何者にでもなれて、そしてこれから何者かになってゆく最中の主人公・真白は、真っ白いノートに期待を見出すほどには未来に対して前向きで、しかし同時に『私』というものを捉え切れずにいる。『私』を奪いにくる『カタナシ』の存在は、そのまま今現在の『私』というものがいかに不安定であるかを証明しているようなもので、つまり〝何者にもなれる〟ということは同時に〝何者でもない〟ということ、そう考えたならすなわち『カタナシ』とは——と、十代の頃に感じたあれやこれや、前向きな気持ちも重苦しい不安も含めて、そのすべてをそっくり具現化したような舞台装置が本当に綺麗でした。いや綺麗というかなんというか、ピタッとはまる感じが本当に好き。
懐かしくもみずみずしい感覚をうまく切り取った、真っ直ぐな青春物語でした。