第392話 指名依頼再び
呼び止められる前に退散すると、素早く破壊された蜘蛛TYPEのところまで移動して異空間ボックスに収納する。感知系スキルをフル稼働させて、後を付けられていないことは確認済みだ。
「ん?」
少し遠くに魔物の群れの気配がある。方向を考えるとオーガの集団がやって来た方向だ。もしかするとオーガの村でもできているのかもしれない。
「また遠征に出られても面倒だし、潰しておこうか」
ゴブリンやオークなどの村ができていればもちろん殲滅対象だ。オーガも例外ではない。サクッとオーガ村を殲滅させると、延焼しないように村の範囲を結界で覆ってからすべてを灰にしておいた。
「おかえり柊。どうだった?」
テレポートで帰って自宅のリビングに顔を出せば全員揃っているようだった。
「ただいま」
オーガに破壊されたことやダークエルフがいたことなどを伝えていく。
「ほぅ、ここにもダークエルフがいたんですね」
エルが珍しく会話に入ってきたと思えば、どうやらダークエルフを知ってるらしい。
「以前、商業国家の東部地域で会ったことがあります」
「なるほど。商業国家の東部って、ここからずっと南に行って国境を越えたところだよな」
「そうですね。もしかするとあのあたりの森には、他にもダークエルフの集落があるのかもしれません」
「エルフはたまーに街で見かけるけど、ダークエルフって種族もいたんだな」
どうやらイヴァンも会ったことはないらしい。
「接触することがあればお任せください。エルフ語は話せますので」
「あ、そうなんだ」
「エルフ語ってどんなの?」
莉緒に聞かれて、いくつかエルフ語を話してみる。問題なくエルには通じたし、莉緒とも会話することができたが、イヴァンとフォニアには通じなかった。
「なんでだろ? 二人とも異世界言語スキル持ってなかった?」
莉緒に言われて改めて二人を鑑定するが、確かに持っている。
「あー、もしかして異世界じゃないからじゃね?」
「んん?」
ふと浮かんだ理由にイヴァンはますます首を傾げている。
「つまり、イヴァンとフォニアにとってこの世界は異世界じゃないってことだ」
「その人の出身世界以外が異世界ってことね」
「そういうこと」
「なるほど」
莉緒の説明でようやく理解したようだ。
つまり俺たちは、仁平さんたちがいる世界の各種言語は理解できるということだ。
スマホで適当に検索してみると確かに理解できる。わかってはいたけど、改めてはっきりと自分の知っている日本じゃないと証拠を突き付けられた気分だった。
翌日からは関西弁をしゃべる奴らの調査に本格的に入っていく。冒険者をやっている俺たちだから、イヴァンが言っていた関西弁をしゃべる冒険者を調べるのが一番手っ取り早いだろうか。
メサリアさんに聞いた話だと、特に怪しい動きをしている人物は見つからないらしい。普通に街で働いていたりするようだ。ただし冒険者が依頼で街を出たあとのことは調査しきれていないとのこと。
「今日も来てるかわかんねーけどな」
「まぁでも、行ってみないとわからないし」
というわけでやってきた冒険者ギルドである。談話エリアにはいくつかテーブルとイスが備え付けてあるので、空いている席へと陣取る。ここに来ているのは俺と莉緒とイヴァンの三人だ。フォニアとニルは孤児院に遊びに行っている。
辺りをそれとなく観察するが、そうそうすぐ見つかるものでもない。俺と莉緒は周囲の会話を、イヴァンは見覚えのある顔を探っている。
「あの、すみません、Sランク冒険者のシュウさん……、ですよね?」
しばらく経ったころ、俺たちに声を掛けてくる人影があった。腰まである栗色の髪をポニーでまとめた小柄な女性だ。
「そうですけど」
「あぁ、よかった」
俺本人で合ってたからか、胸の前で両手を合わせて安堵の表情を浮かべている。
「ええと、失礼しました。わたし、ここのギルドマスターをしているリーフレットと申します」
「えっ?」
「嘘でしょ?」
「マジで?」
まさかのギルドマスター発言に俺たち三人とも反射で声が出た。
「あはは……、よく言われます……」
苦笑いが返ってくるが、荒くれ者が多い冒険者ギルドのマスターがまさかの大人しい性格とか。いやしかし、実はこう見えてキレると怖かったりするのかもしれない。
見た目で判断、よくない。
「それで、俺に何か用ですか?」
「あ、はい」
改めて問いかけると、ギルドマスターが居住まいを正して真面目な表情に変わる。
「領主様から出ている指名依頼を受けていただけないかと」
まさかの一度断ったはずの指名依頼だった。今度はギルドマスターから話を持ってくるとは、そんなに引き受けて欲しいのか。いやそりゃ受けて欲しいか。
「えー。一度断りましたよね」
「そうですけど……、そう言わずに受けてもらえませんか? 前より依頼料も二倍になってるんですよ。すごいでしょう? 受けたくなってきませんか?」
「二倍って……」
横でイヴァンが呟いてるが、Sランクへの指名依頼となれば安い額じゃないはずだ。前の値段は聞いてないけど、そこまで受けさせたい何かがあるんだろうか。
「でも依頼の内容はここでは話せないんでしょう?」
「うっ」
莉緒の返しにギルドマスターが言葉に詰まる。
「そ、そこを何とか……。領主邸までの送迎馬車も出すので、なんとかならないでしょうか?」
「そこまでするんだ……」
ここまで低姿勢で誠実にお願いされてしまえば、断るほうが悪者になった気分になってくるから不思議だ。それなりにNOと言えるようになったと思ったけど、押しには弱かったのか。
「はぁ……、そこまで言うんであれば、話だけでも聞きに行きますか」
「ほ、本当ですか!?」
「あ、行くんだ」
目を輝かせるギルドマスターに、意外だと驚くイヴァン。
「まぁ、いいんじゃない?」
折れた俺に莉緒も苦笑いだ。
「ありがとうございます! すぐに用意させます!」
それだけ告げると、さっそく用意をするべくギルドマスターはカウンターの中へと駆けこんでいった。
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