第390話 新たな勢力

「あっ」


「どうしたの?」


 方言を話す人たちをどうするかで頭を悩ませている時だったので、思わず声が出てしまった。ちょっとこっちのほうが重要かもしれない。


「蜘蛛TYPEが一体破壊された」


「えっ?」


「マジで?」


 俺の言葉に莉緒とイヴァンも似たような反応をしてくれる。ステータスだけならイヴァンにも匹敵する強さを持つTYPEシリーズだ。しかも隠密に特化しているスキルを持たせているので、それを捕捉して破壊するとなると厄介な相手である可能性が高い。


「ああ。作成して数日で故障ってこともないだろうし、この土地にいる何かと遭遇してやられたって考えたほうがいいかも」


「場所は? ここから近い?」


 莉緒が真剣な顔つきで尋ねてくる。最悪この地が襲われて被害が出ればたまったものじゃないので、最優先で対応する必要がある。

 蜘蛛TYPEの反応が消えたあたりの座標を地図スキルと照らし合わせると、すぐに場所は判明する。


「この盆地を囲う山を越えた南側だな。二百キロくらい離れてるけど、魔物の行動範囲なんてわからんから何とも言えない」


「だなぁ。空を飛ぶ魔物だったらなおさらだよな」


「確かにそうね……」


「様子を見に行くけど、どうする?」


「うーん……、私は万が一に備えておこうかしら」


「了解」


 確かにそのほうが安全ではある。ニルとフォニアに任せておけばどうにでもなりそうだが、数で攻められるとどうしようもないし。念には念を入れておこう。


「気を付けてね」


「ああ」


 莉緒に見送られながら、現地の周囲に誰もいないことを確認してから蜘蛛TYPEが破壊された現場の近くへと跳ぶ。

 どうやら森の中のようで、うっそうと茂った緑の匂いに包まれる。気配察知を伸ばすとさっそく生物の反応があった。結構な群れのようだが、一定の方向に向かって移動中のようだ。


「なんか目的地でもあんのかな?」


 先回りしようと、まずは移動先に何かないか気配察知を伸ばしてみると。


「んん?」


 密集した気配がたくさんあった。

 もしかしたら生物の群れはこの先の集団に向かっているのかもしれない。破壊された蜘蛛TYPEは移動中の群れの後ろなので、この生物が向かう先の集団はたぶん関係ないと思う。

 移動する群れと集団がぶつかるとどうなるかわからないが、たぶん戦闘が起こるんだろうなぁという予感はする。


 人跡未踏の地ではあるが原住民がいない可能性もゼロではない。のんびり衝突するのを待っていてもいいけど、万が一集団の方が人間だったら後味が悪い。移動する群れ? あっちには蜘蛛TYPEを破壊した容疑があるので慈悲はなくていいかもしれない。


 視界を空間魔法で飛ばして姿を確認すれば、移動中の群れは三メートルを超える二足歩行の魔物だった。赤い肌をしていて額から伸びる角を持つ姿は、鑑定結果のオーガという名前に合った威容を誇っている。百体近くいるのでそこそこの脅威だろう。しかもちらほらと上位個体がいるようだ。


 一方向かう先の集団は。


「……エルフ?」


 視界を飛ばせば目に付いたのは村だ。森の中にうまく紛れ込むようにして家屋が建てられていて、自然と共に暮らしている様子が一目でうかがえる。上空からパッと見ただけだとわからないはずだ。

 ただし、村の中は慌ただしい様子を見せている。子供や老人が村の後方へと避難し、若い衆が武器を携えて村の外へと飛び出していく。


 村人全員が褐色の肌をしているところを見ると、ダークエルフという種族なのだろうか。鑑定してみたがダークエルフで間違いないらしい。魔法には強そうな種族だそうだが、襲ってくるオーガを思えばエルフの華奢な体つきは何とも頼りない。悲壮な表情をする村人がちらほらと見えるので、オーガの群れを退ける実力はないのかもしれない。


「ここは恩を売っておきますか」


 原住民と言えど、もらった土地の住民ではある。面倒なので何もする気はないけど、ご近所さんとは仲良くしておいて損はないだろう。


 迫るオーガを半包囲するように展開して待ち受けるダークエルフたち。視界の悪い森の中なので、オーガは自ら危険地帯に無防備に突っ込んでいると気が付いてはいない。


 タイミングを図りオーガとダークエルフが接敵する直前で、オーガの群れの横っ腹を食い破るようにして突撃を敢行する。先頭を走っていたオーガの集団が、後ろから膨れ上がる俺の魔力と殺気に気を取られたのか、慌てた様子でダークエルフたちの射程内へと躍り出る。


「撃てぇ!」


 そこへダークエルフの美麗な声が響いたかと思うと、一斉に遠距離攻撃がオーガに向かって浴びせかけられる。

 森林破壊は不味いと思って範囲魔法を使わずに突っ込んだというのに、ダークエルフたちはおかまいなしに派手な魔法をぶち込んでいる。


「なんでやねん」


 思わず関西弁が出てしまった。


「まあいいか」


 オーガの集団を突き抜けた後で、遠慮は無用とばかりに後方の集団へと範囲魔法を叩き込む。オーガはなかなか耐久力があるので、心持ち魔力を普段より込めた一撃だ。広範囲にわたって地面から土の槍を生やして相手を串刺しにする。

 多少地面が耕されるが、焼き払ったり大量伐採するよりはマシだろう。


 あらかた片付いたので先頭集団へと向かって行く。

 遠慮のないダークエルフたちの魔法で見晴らしの良くなった場所で、オーガとの闘いは引き続き繰り広げられていた。


 一体だけ体格のいい真っ黒い肌をしたオーガが残っているようで、ブラックオーガという種族のようだ。ダークエルフたちのステータスを上回っており、まだ死人は出ていないようだが負傷者が次々と出ている。


 このオーガだけはちょっとだけ荷が重いのかもしれない。

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