第389話 予感

 いつでも収穫に来れるように、ダンジョンの入り口を設置すると次の場所へと巡る。これを十回ほど繰り返しただろうか。味見できたのは三種類ほどの食材だけだった。

 食材には旬というものがあるし、収穫できない食材のほうが多いのは当たり前ではある。蜘蛛TYPEに付与した鑑定スキルでは、旬の時期までは判別できなかったので仕方がない。


「さっきのはビックリしたわねぇ」


「全身鳥肌立ったぜ」


「いっぱいいたねー」


 森の中で芋掘りをしていたところ、蜂の大群に襲われたのである。体長五十センチくらいのデカい蜂だったけど、かなりすばしっこい奴だった。風の範囲魔法で蹴散らしたけど、仕留めそこなった蜂が一定方向に逃げて行ったのでどこかに巣でもあるのかもしれなかった。


「はちみつとか取れないかな?」


「蜘蛛TYPEの調査結果には入ってないのよね?」


「入ってないね。巣の外からだと鑑定はできないのかも?」


「食べ物以外は情報収集してないのかしら」


「確かに」


 言われて見れば、食べ物かどうか判定するのに鑑定をしているはずなので、情報は蓄積されている可能性はありそうだ。

 このデータいろいろ検索できると便利そうだなぁ。え? DP10万でできるようになる? じゃあお願いします。えーと確か蜂の魔物の名前が――。


「あった。キングクリムゾンビーの巣だって」


「えらい名前の魔物だな」


「きんぐくりーむぞんび?」


「あはは! ちょっと違うかなぁ」


 フォニアの言い間違いがちょっとツボに入ってしまった。アンデッドじゃなくて蜂の魔物だ。イヴァンは口元を抑えて肩を震わせながらうずくまっている。


「ふふ。じゃあハチミツ採りに行きましょうか」


「うん!」


 首をひねっていたフォニアだったけど、莉緒に促されて歩き出す。

 三十分も歩けば大木に寄生するような形の巨大な蜂の巣を発見した。周囲を飛び回る蜂がうるさいが、結界で全員を覆っているため相手の攻撃は何も届かない。


「じゃあちょっと行ってくる」


「気を付けてね」


 全員を覆っていた結界から抜け出すと、自分一人用の結界を張りなおして蜂の巣へと近づいていく。木の大きさは高さ七メートルほどだろうか。半分は緑が茂っているが、もう半分が蜂の巣で寄生されるように覆われていて、緑はぽつぽつとみられるだけだ。


「ふむ」


 空間魔法で蜂の巣内部をスキャンすればだいたいの構造はわかる。下層にいろいろとモノが詰まってるみたいだからこれだろうか?

 風魔法で下層部分をごっそりと切り裂いて引っこ抜くと、断面に黄金色のツヤが見えたので間違いないだろう。


「ハチミツとったどー!」


「とったどー!」


 群がる蜂を魔法で吹き飛ばしながら頭上に掲げると、フォニアも真似をしてバンザイしてくれた。

 あとは収穫物をどう処理するかだな。




「たくさんありますね……」


 気になる場所を回って帰ってくると、さっそくメサリアさんに相談する。

 収穫物もそこそこあるけど、仕分けしたり食べ方を研究したりといろいろやってみたいことができたのだ。蜘蛛TYPEが調査した場所の調査も丸投げしたいが、近場はともかく遠い場所は自分で行くしかないかな。もしくは等間隔の場所にダンジョンの入り口を作ってしまうか。


「わかりました。なんとかしましょう」


 さすがメサリアさんである。とても頼りになる。


「よろしく~」


 時期が合わずに収穫できなかった七か所についてメサリアさんへと情報共有する。俺たち以外も通うことを考えると、もらった土地の形をした、各地への扉を設置する階層を用意したほうがよさそうだ。


 とりあえず今ある食材は、我が家のシェフにもいくつか提供してみよう。なんか美味いものでも作ってくれそうだ。

 今日の戦利品はベベレージュに山芋もどき、じゃが芋もどき、ハチミツだ。山芋もどきは地面の中を横方向に伸びて育つ種類のようで、最初に掘った時にぽっきりと折れてしまった。


「ところで、クラスメイトにあれから動きはないですか?」


「はい。今のところ動きはないようです」


 現実逃避から戻ってきたので念のためメサリアさんに確認してみたが、一日程度じゃ動きはないようで何よりだ。


「ただ別件ですが、以前虫TYPEをつけた方言の強い人物についてです」


「何かわかったのか?」


 なんとなく関西のイントネーションがあったあの二人組だ。俺たちの拠点入り口まで来て何もせずに引き返していった奴らだな。

 ……そういえば巨大魚の解体で来てた冒険者の一人にも、方言でしゃべる奴がいた気がするな。


「いえ、詳しいことはわかっていないのですが、方言を話す人間がここ最近街に増えているみたいで……」


「ふーん?」


「そういえば冒険者ギルドでもそんな奴らいたぞ」


 首を傾げているとイヴァンからも報告を受ける。ちょっと聞き取りづらい言葉を話す冒険者が何人かいたそうだ。


「なんだろね?」


「まだ確証を得るほど住民に聞きこんではいませんが、近隣の街や村にはそのような方言を話す地域はなさそうなので気になってはいます」


「それはまた謎すぎるな」


「急に人が現れたってこと?」


「おいおい、まさかシュウたちみたいな空間魔法持ちか?」


「いたとしても、どこから来たのか……」


 イヴァンの言葉にあり得なくないとは思いつつも、そこまで使いこなせる人物の噂も聞いたことないなぁと記憶を振り返る。


「最悪の場合、捕獲、拷問して聞き出すことも可能ですが」


「いやいや、さすがにそれは」


 物騒なことを提案するメサリアさんだったが、何も事件が起こっていないうちからそれはないと止めておく。とはいえ今のところ、各自を監視するくらいしか対策は浮かばなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る