第385話 フォニアのお友達
期限は二日後のお昼。今からだとちょうど二日間とちょっとくらいの時間がある。というわけでじっくりと二日かけて魚を捕まえてみることにした。
「夜はどんなのが釣れるかな?」
「光に寄ってくる奴とかいるかも」
昔テレビで見た夜の漁の様子を思い出そうとするけど、めちゃくちゃ明るい照明をつけた船が海に浮かんでるだけの光景しか浮かばなかった。案外記憶と言うのは適当なようだ。何が獲れる漁だったのかも覚えていない。
日が高いうちはいつものように海に潜って魚を獲り、海底の貝や甲殻類を乱獲して回った。うじゃうじゃいたので獲りすぎということはないだろう。たぶん。
『お、伊勢海老みたいなやつがいるぞ』
夜になった海底を探し回っていると、立派な触角をもつ生物を発見した。
『相変わらず大きいわね』
さすが巨大生物がうごめく海域である。このあたりで獲れる甲殻類も大きかったが、この伊勢海老もどきも巨大だ。触覚の先から反対側の触覚の先まで二百メートル以上はありそうだ。それを思えば本体は小さく感じるが、それでも数十メートルはある。
『そのまま異空間ボックスに入らないこともないけど……。触覚は折るか』
うごめく触覚を躱して伊勢海老もどき本体へと肉薄する。触覚もかなり太いので、中に身が詰まってたりするのかもしれないからと捨てるようなことはしない。
『そろそろ休憩にしましょ』
ある程度まで狩りつくしたところで今日は終わりにすることにして、海上へと浮上していく。
「ん? なんかいる?」
ほぼ無意識に行っている気配察知を地上に広げたところ、巨大魚出現海域のギリギリ外側に多数の人間の気配があった。
「あ、前にも見つけた大型船?」
前回漁に来た時にもいた怪しい大型船を思い出して莉緒が言葉にするが、たぶん間違ってはいない。視界内には見つからないが、視界を魔法で飛ばすと遠くに十数隻もの大型船がいるのが見えた。
「うん。いっぱい大型船がいるけど、あんなにたくさん港にいたっけ?」
「さぁ?」
巨大魚をふるまった港を思い出しても、そこまで大きな船は見かけなかったような気がする。とはいえずっと監視していたわけでもない。もしかしたらこの巨大魚生息域を越えて、人跡未踏の地を探索しようとする勇敢な人たちなのかもしれない。
「まぁいいか」
「害がないならいいんじゃない」
「だな」
適当にがんばってくれと思いながらも、この日は自宅へと帰って休んだ。
「あさだー!」
翌日ものんびりと漁を行い、マイルズさんに魚を納品する日となった二日後。やけにテンションの高いフォニアに起こされた。
「お兄ちゃん朝だよー」
声のするほうを向いてうっすらと目を開けると、ニコニコと上機嫌なフォニアの顔が視界に入ってくる。
「えへへ」
起きたことを確認したフォニアがベッドの反対側へと回ると、「お姉ちゃん起きてー」と莉緒にも声を掛けている。
つられて反対側へと顔を向けると、目を覚ました莉緒の顔があった。
「ふふ、おはよう」
「ああ。おはよう」
ここは拠点にある自宅の俺と莉緒の部屋だ。昨日も夜遅くまで漁をしていたので、帰ってからは何もなく普通に寝たので部屋の鍵はかけていなかった。
「おはようフォニア」
「フォニアちゃん、おはよう」
軽くキスをしてから二人一緒に起き上がると、ベッドの上にフォニアも上がってきて莉緒に抱き着く。
「何かいいことでもあったのか?」
二日前から夜中にも漁をしていたので、しばらくフォニアと顔を合わせてなかった。なんとなく寂しかったのかと思いながらも、尻尾がフリフリと揺れているフォニアに聞いてみる。
「うん! 今日はね、孤児院に遊びに行くの!」
「そうなんだ。お友達がいるの?」
「いっぱいできたよ!」
「へぇ、よかったわねぇ」
そういやヒノマルって孤児院の支援もしてるんだっけか。アイソレージュの拠点の隣にあるし、ここから街に行くときには通るので何かのきっかけで交流ができたのかもしれない。フォニアもまだまだ子どもだし、友達ができるのは悪いことではない。
むしろずっと旅ばっかりで、そういうところに気が回っていなかったなぁと反省だ。
「だからね……」
微笑ましく見ていたらフォニアがもじもじと耳を垂れて俯く。何か言葉が続くのかなと思って待っていると、ゆっくりと顔を上げて俺たちを伺ってきた。
「だから、お兄ちゃんとお姉ちゃんも一緒に行こ?」
声のトーンを落として恐る恐るの上目遣いは効果がバツグンだった。
「よし、行くか」
即決していると、莉緒はフォニアの頭をよしよしと撫でている。
「お姉ちゃんたちはお昼からお仕事があるから、午前中だけになるけどいいかな?」
マイルズさんのことはあえて彼方に放り投げていたが、莉緒にはフォニアの上目遣いが効いていないのだろうか。
「うん! 大丈夫だよ! やったぁ!」
莉緒の言葉を聞いて一気にテンションが上がるフォニア。耳がピンと立っていて尻尾も激しく揺れている。
「じゃあ朝ごはん食べたら行こうか」
「わかった!」
「着替えるから先に行っててね」
「うん!」
ぽんぽんとフォニアの頭を撫でると、元気よく頷いてベッドから飛び降りて部屋を出ていく。
「はああぁぁ、今日のフォニアちゃんはいつにもまして可愛かったわねぇ」
フォニアが出て行ったドアを見つめながら、莉緒がため息をついている。どうやら上目遣いの効果がなかったわけではないらしい。
「あれには勝てる気がしない」
「さすがに仕事はちゃんとしないと」
キリっとした表情で莉緒に返したが怒られてしまった。半分は冗談だから安心してくれ。
「まぁ、アホなこと言ってないで準備するか」
こうして部屋で着替えを済ませると、莉緒と二人で食堂へと向かうのだった。
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