第383話 調査は物量に任せよう

「なんだか可愛く見えてきたかもしれない」


 試しに何のスキルも付与せずに最弱の蜘蛛TYPEを生成してみたところ、シャキシャキと動く蜘蛛TYPEを眺めていた莉緒の言葉がこれだった。

 産毛が生えたタランチュラみたいな見た目だったらダメだったかもしれないが、メカメカしい見た目だとやっぱり違うようだ。むしろ俺にはカッコよくすら見える。


「案外かっこいいかも」


「ええー、可愛いじゃない」


 どうやら莉緒とは感性が合わないようだ。この鋭角的な蜘蛛が可愛いだなんて。


「とりあえず基本形はこれでいいかな」


「いいんじゃない? あとはスキルを付与するの?」


「うん」


 基本形の最弱蜘蛛なら消費DPは1000みたいだ。といっても素のステータスもBランク冒険者くらいあるから振らなくていいだろう。鉱山資源調査のための土魔法と、食い物探しに鑑定スキルを振っていく。棒グラフみたいな感じでスキルレベルが増やせるっぽいけど、やっぱりスキルにもレベルってあるよな。

 魔法のランクも初級、下級、中級、上級、聖級ってあるし。確か九段階だっけ? 普段何気なく使ってて意識してないからよくわからんが。


 土魔法は初級だとDP2000か。次が5000で、1万、5万、20万と増えていく。鑑定はレア度が高いのか、土魔法の二倍DPが必要なようだ。


「んー」


「どうしたの?」


「いや、付与するスキルのレベルによって消費DPが違うんだけど、どれくらいいるのかなって」


「ふーん、柊の鑑定じゃわからないのよね?」


「うん。スキルを持ってることはわかるけど、そのレベルまではわかんないね。でもたぶん、食べ物かどうかの判別はそこまで高くなくてもいいと思うんだよね」


「ああ、確かに。問題は鉱山資源のほうね」


「そうそう。地中深くにある鉱山資源を探すって難易度高そうだし」


「それなら魔力操作のスキルも上げておいたら?」


「あー、なるほど」


 莉緒の助言通りに魔力操作もポチポチとスキルを付与していく。こっちも鑑定と同じだけDPを消費してしまった。


「土魔法に100万、鑑定に10万、魔力操作に200万、あとは見つかりにくいように気配遮断と隠蔽と……」


「へー、カスタマイズするとけっこう食うわね」


「みたい」


 結局もろもろのスキルを追加すると、一体で500万ほどDPを使ってしまった。


「とりあえず百体くらい土地の調査に向かわせるかなぁ」


「おー、太っ腹」


「資源確保を思えば、投資かな。……お?」


「どうしたの?」


 頭の中に浮かぶダンジョンクリエイトのメニューを操作していると、思わぬ便利機能を発見したのだ。


「いや、作成する魔物を登録しておけば、一度に大量生成するときに消費DPの割引があるみたい」


「そんなのあるんだ」


「うん。どこかに量産工場でもあるのかな」


 なんとなくベルトコンベアーで流れ作業のように組み立てられるTYPEシリーズが頭に浮かぶ。


「あはは!」


 莉緒が何を想像したのかわからないが、案外似たようなことを思い浮かべたのかもしれない。


 頭の中にあるクリエイトメニューで生産数に百と入れると、一体当たりの消費DPが450万になったのだ。増やせば割引率も増えるかなと思って入れてみたら案の定だ。


「うーん……、千体で半額か……。ちょっと迷うなぁ」


「いくら残ってるの?」


 確認してみれば残り55億DPだ。いろいろ使ってる気がしたけど思ったより減ってない。定期的にTYPEシリーズが魔の森に出て魔物を引き込んでDP化しているのもあるかもしれない。


「思い切っていってみようかな」


「おおー、25億! 一気に半分近くって、柊もDP使いが荒いねぇ」


「まぁ、使い道あんまりないしなぁ」


 現代日本にいつでも行けるようになった今、自分が欲しい便利道具は思ったより手に入るし。

 そんなことを思いながら、頭の中でクリエイトメニューのOKボタンをポチっと押してみた。


「お」


 さっそくダンジョンによって生み出された蜘蛛TYPEが目の前に現れる。全長二メートルくらいの大きさだろうか。鈍色に光る金属で構成された体は頼もしく見えてカッコいい。


「へー、最初に作ったスキルなしのやつより気配が薄いわね」


「それなりに斥候スキルも盛ったからな」


 会話している間にも次々と生まれてくる蜘蛛TYPE。溢れそうになってきたので次々と探索命令を出して各地へ向かわせる。


「がんばってねー」


 莉緒が手を振って見送るが、もちろんTYPEシリーズは何の反応も返さない。


「さて、何を見つけてくるかな」


「楽しみだね」


 さっそく次々と探索結果がダンジョンメニューに集まっている。


「タブレットで集まってきた情報が見れるみたい」


「そうなんだ。……あ、すごい、……けど、集まりすぎでしょ」


 取り出したタブレットを操作している莉緒だけれど、眉間に皺を寄せている。常時集まってくる情報は多すぎて追えない勢いだ。基本的にはどこに何があったかという情報だけど、眺めてるだけで面白い。


「近くに芋の群生地があるっぽいね」


「こっちにはベベレージュっていう果実があるって。……名前だけだとよくわからないわね」


 思ったより食べ物も豊富そうだ。ダンジョンのクリエイトメニューでも生成できるけど、DPで生成した食べ物ってなんとなく抵抗があったのでちょうどいい。

 待っているだけで情報が集まってくるシステムが完成した瞬間だった。

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