第382話 迎賓館と土地の調査

 ある程度迎賓館が形になってきたころ、またもやこの地へと訪問者がやってきた。

 と言ってもまだまだ距離はあって遠い。莉緒にも感知できる距離じゃないはずなので、誰かが来ることだけ伝える。


「そうなの?」


「ああ」


 建設中の建物から玄関の外へと視線を向けるが、首をひねっている。


「二人組が徒歩でこっちに向かってきてるみたいだ。後二時間くらいで門の前までくるんじゃないかな?」


「ふーん。……何しに来たんだろうね?」


「用があるなら呼び鈴鳴らすんじゃないかな?」


 俺たちがここに来てからは、呼び出せるように呼び鈴を設置したのだ。ずっとTYPEシリーズが監視している映像を監視するわけにもいかなし、そのほうが楽だ。


「あ、ホントだ。来た」


 しばらく迎賓館建築作業を続けていると、莉緒も気が付いたようだ。


「あれ?」


 手を止める理由もないのでさらに作業を続けていると、どうやら訪問者の足がまだ遠いところで止まって動かなくなっているようだ。


「なんだろな?」


「さぁ……?」


 ちょうど建物が視界に入るくらいの距離だろうか。今まで何もなかった荒れ地に建物ができてたら驚くかもしれない。

 妙に慎重になっている訪問者に首をひねりながらも作業を続けていると、ようやく門まで百メートルくらいのところまで近づいてきた。

 ある程度近づいてきたところで俺たちも作業を止めて、見えないところから観察しているけどどうにも怪しい。


『いやほんと、何しに来たんだろうね?』


『だなぁ。あれだけ警戒されてると、素直に聞いて答えてくれる気がしねぇ』


『だよねぇ』


 念のため会話が聞かれないように念話に切り替える。

 どうやら二人組の男のようで、軽装備の冒険者と言った風体だ。見た目だけなら斥候っぽいけど、どうやら二人だけで他に人の気配は感じられない。


「うわぁ……、マジででかい建物建っとるやん?」


「こっちはなんもないって聞いたけど……」


「一か月かそこらで建てたってことか?」


「そうとしか考えられんやろ」


 聴力を強化しているとコソコソと話す声が聞こえてくる。訛りが強いがちゃんと聞き取れる。ここら辺の人間じゃないのかな。


「港街じゃ見かけんらしいし、やっぱりここに籠ってるってことちゃうか」


「そうやなぁ……」


『なんとなく、俺たちのことを探りにきたっぽい?』


 二人の言う通り、最近は拠点の建設で街には寄っていない。


『……そんな気がするわね』


 周囲を警戒しながらも建設中の迎賓館とその奥にそびえる山々へ視線をやり、思案する二人組。目的は不明だが、今のところ様子見だけのようだ。


「どうする? この先も偵察するか?」


「いや、せんでええんちゃうか。建設中みたいやし、すぐに完成せえへんやろ。それまでは出てこんのとちゃうか」


「それもそうやな」


「さっき商人ともすれ違ったし、補給で街にも来ぇへん可能性はあるんちゃうか」


「ほんならさっさと本隊と合流するか」


「せやな」


 それだけ言うとあっさりと引き返していく二人組。

 思わず莉緒と顔を見合わせると頷き合う。


『怪しいな』


『怪しすぎるわね』


『虫TYPEシリーズ付けるか』


『うん。メサリアさんにも伝えておきましょ』


『おう』


 こうして多少の訪問者がありながらも、迎賓館の建設は進んでいった。




「ただいまー」


「「おかえりなさいませ」」


 四日ほどかけて迎賓館を建てて家へと帰ってくると、使用人たちに盛大に出迎えられた。


「おう」


 なんとなく返事を返してしまうけど、どうするのが正解なのかよくわからない。

 一応毎日帰って来てはいたけど慣れないもんである。


「外観は作ったから、あとはよろしく」


「「かしこまりました」」


 俺たちの代わりに、料理人を除く使用人たちが迎賓館へと向かっていく。誰も訪れない我が家より、一番最初に客の目に触れる迎賓館を整えるのが優先らしい。


「明日は魚獲りに行くんでしょ?」


「そのつもり」


 我が家の入り口まできたマイルズさんが、そろそろアイソレージュに着くころだ。明日には確実に戻ってるだろうから、顔を出してから漁に出ようと思っている。


 イヴァンはフォニアとニルを連れてアイソレージュの冒険者ギルドへ行ったらしく、今は依頼を受けている真っ最中とのこと。メサリアさんには怪しい二人のことは伝えてあり、ヒノマルのメンバーで相手を本格的に探り始めたところだ。


 しかし今はちょうどお昼を過ぎた頃。ちょっとだけ時間が余ってる感じだ。


「そろそろ他の土地の調査もしないとなぁって思ってたんだよね」


「調査って、ここを見つけたときみたいに空から?」


「はは、さすがにそれだと大雑把すぎて細かいところまでわからないから」


「違うんだ」


「うん。TYPEシリーズが使えないかなって思って」


「へぇ?」


 ダンジョンの機能を使えばいろいろな物がクリエイトできる。とはいえ今あるものでだいたい賄えているので、あんまり使ったことがない。


「土地の調査特化のTYPEシリーズ。土魔法で鉱山資源を探しながら、鑑定スキルをつけて何か面白いものとか食べられるものとか探してもらう」


 とはいえオリハルコンなどの希少金属をクリエイトするのは消費DPが高いし、未知の金属はクリエイトできない。なので鉱山資源が埋まってるならそれに越したことはないのだ。


「そんなことできるんだ」


「できるみたい」


 調査用だしそんなに強くなくていいと思うから、DPは節約できるんじゃなかろうか。とはいえ広い土地だから数が欲しい。戦闘をするわけでもないからダンジョン外でも長時間稼働できると思う。


 各地へと繋がる扉のあるダンジョンの階層へ降りると、さっそくダンジョンクリエイトメニューを使って魔物を作っていく。相変わらずメカメカしいTYPEシリーズしか作れないけど問題はない。


「やっぱり山岳地帯を走破するとなると、多足型かな?」


「えぇー?」


 蜘蛛になりそうな提案をすると莉緒が嫌そうな顔になった。

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