第376話 新天地

「ここら辺から向こう側?」


「たぶん?」


 心ゆくまで海鮮を堪能した後、港街を出て南下し割譲された土地近くへとやってきた。莉緒の疑問に俺も疑問で答えつつ、国王にもらった地図を取り出して確認する。


 ちなみにマイルズさんには巨大魚の切り身をいくつか売った。さすがに一匹丸まるは無理だったようだが、そこそこの量を売ったのである程度のお金にはなっている。

 今後も取引をする約束を取り付けたので、いい金づ――資金源になってくれることだろう。


「何もないな」


「そりゃそうでしょ」


 アイソレージュの街から南へ五百キロメートルほどの位置である。馬車だとだいたい四日くらいだろうか。途中にいくつか村があったが寄ってはいない。ここから一番近い村だと北に三十キロほどだろうか?

 東側の向こうに海が見えるが、それ以外はまばらに草木の生える荒野だ。南と西の遠い場所に山々が聳えているのが見える。


「でも、いまいちピンとこないよな」


 目の前の土地が自分のものだという実感は一切ない。街の土地を借りたことはあるが、それだけだ。借りた土地は塀で囲まれていたが、ここには何もないのだ。


「壁でも作るのか?」


「私有地につき立ち入り禁止の看板を立てるとか」


 イヴァンと莉緒にそれぞれ提案はされるけど、それでも看板はいまいちかもしれない。ここは日本じゃないし、律儀に守る人間がいるとも思えない。いやいるかもしれないが少数派だろう。


「無難なのは壁だろうけど、実際作ってみたらまた変わるかも?」


「かもしれないわね」


「だな」


 二人の言葉にうなずくととりあえず壁を作ってみることにする。莉緒と二人で協力して東西に壁を作っていく。一応獣道上には出入りできるように門を設置する予定だ。一応玄関になるんだろうか。知らんけど。

 三十分ほどもすれば、獣道から水平線の向こうまで続く壁が出来上がる。


「はえーな」


 イヴァンが額にひさしのように手を当てて遠くを眺めている。


「まぁこんなもんでしょ」


「入り口はどうするの?」


 莉緒に尋ねられて入り口を振り返る。一応馬車も余裕で通れるように十メートルほどの幅を空けて、東西に壁が聳え立っている。

 その壁の向こうからちょうどフォニアが顔を出してきたので手を振ってやる。


「鉄格子の門でも設置するかな?」


 大きい街ならどこにでもありそうな屋敷の玄関を思い浮かべる。


「材料の鉄なら異空間ボックスに在庫はあるよ」


「んじゃ作るか」


 さくっと門を作るとさっそく入り口へと設置する。


「こんなもんかな」


 適当に作った割にはそれなりの出来栄えだ。壁は東西に十キロメートルほどしかないので回り込もうと思えば回り込めるが、何かの依頼で冒険者が向こう側にいるとも限らない。出られるようにはしておいたほうがいいだろう。


「よし、じゃあ行くか」


「「「おー!」」」


 掛け声にエル以外の三人が声を合わせる。

 ここからは拠点になりそうな場所を空から探す予定だ。ニルに大きくなってもらえれば三人乗せて空を駆けることができるようになる。もちろん速度は出ないが、それでも一般道を走る車ぐらいは出るので問題ない。


「じゃあニルよろしくね」


「わふっ!」


 こうして広い山岳地帯を、上空からのんびりと探索していく。


 険しい山岳地帯をのんびり探索すること一週間ほど。拠点となる場所の候補はいくつか見つかっていた。山に囲まれた高原や、森林、湖の畔などだ。中には山中の洞窟やダンジョンもいくつかあった。


「やっぱりここかな」


「広いよねー」


 第一候補の高原に降り立って周囲を見回す。周囲がすべて山に囲まれており、外から侵入するのは難易度が高そうだ。膝くらいの高さの草が生い茂り、まばらに木も生えているが見通しはいい。遠くで動物か魔物かが草を食んでいるのが見えるが、今のところ危険な魔物は周囲に見当たらない。


「いいんじゃね?」


「問題ないかと」


 イヴァンやエルにも異論はないようだ。


「よし、じゃあ久々に本気出して家を作りますか」


「野営用ハウス以来かしら」


「そうかも?」


 少し高台になっている場所を見つけると、少し脇に野営用ハウスを取り出して仮の宿とする。


「どんな家がいい?」


 リビングに皆で集まるとさっそく相談だ。せっかくなのでみんなが気に入る家を作りたいと思う。


「どんなのって言われてもなぁ……」


 イヴァンが腕を組んで考え込んでいる。


「ボクはこの家も好きだよ?」


 フォニアは野営用ハウスを気に入ってくれているようだ。


「少なくともあたしはこの世界の家には戻れません」


「そうだな。この家もそうだけど、ダンジョン最奥の家も快適すぎてダメになりそうだ」


 エルの言葉にイヴァンが激しく同意している。

 みんな家電製品がないとダメな体になってしまったようだ。いや、ベッドの快適さだろうか?


「ニホンの住宅を参考にしてみては?」


「それいいかも」


 エルの提案に全員で頷き合う。となればさっそく検索だ。みんなでワイワイ言いながら、取り出したノートパソコンでエルが意見をまとめていく。ブラインドタッチを完全習得していて、キーを叩く指の動きはもはや視認することができない。


 各自に自分の部屋を用意し、地下室や防音室に工房部屋、ウッドデッキやテラスがあればなど際限なく案が出てくる。しかし一体誰に遠慮する必要があるだろうか。作るのは自分たちなのだ。


「では、最終的に出来上がった間取りはこちらになります」


 出来上がったものをエルがリビングの大きいテレビに映し出す。


「これがボクたちの家?」


「はは、えらい豪邸になったな」


 苦笑いを浮かべるイヴァンだったが、結局最後までツッコミが入ることはなかった。

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