第377話 使用人を雇おう
三日ほどで建物の外観が完成した。地下にはダンジョンの入り口を作ってあるので、アイソレージュだけでなく他のヒノマル支部と行き来が可能になっている。ちなみに私有地の入り口に作った仮の玄関にも行けるようにしている。
TYPEシリーズに監視もさせているので、来客があってもばっちりだ。
「さすがにあたし一人では無理なので、使用人を雇うことをお勧めします」
「まぁ、確かに」
高原の真ん中にポツンとできた庭で、建設中の建物を見ながらエルにアドバイスを受けていた。
なんでこんなに大きな家にしたのかとは思うけど、三日前の自分たちが調子に乗ったせいなので口には出さない。
「うーん」
とはいえ機密事項も多い俺たちの家だ。Sランク冒険者になってからはオープンにしてきたこともあるが、ダンジョン関連や次元魔法についてはちょっと考えてしまう。
「あたしと同じ奴隷でよいのでは?」
何を悩んでいるのかわからないという様子でエルが首を傾げている。
「そういえば奴隷だったな」
すっかり忘れていたけど、確かにエルの首には隷属の首輪が装着されたままだ。
首輪を見ればエルが奴隷であることはすぐにわかるし、素人ではないのである程度自衛ができる。しかしただの使用人ともなればそうもいかない。奴隷でない素人の口を割らせるのは簡単にできてしまうのだ。
「街にある施設の使用人であればどんな施設か隠したまま雇えるでしょうけど、ここはそうもいかないでしょうし」
拠点から一切出さないということも難しい。日用品の買い出しなど行ってもらわなければ困る。するとダンジョンの入り口を使わないという選択肢はない。そうすると必然的に情報を簡単に漏らせない奴隷に行きついてしまう。
「それじゃ奴隷はメサリアさんに見繕ってもらうか」
「それでよいかと思います。あと本拠地をここに作るのであれば、メサリアも呼んだほうがよいかと」
「それもそうだな」
もともと本拠地はメサリアさんがいたフェアリィバレイだったけど、最近手狭になってきたとメサリアさんに相談を受けていたのでちょうどいい。俺たちの家をみんなで相談して決めたように、メサリアさんに本拠地に必要な施設と言うか間取りは聞いておかないとダメだろう。
そうと決まればさっそく行動だ。
『はい、メサリアです』
スマホで連絡を入れれば、呼び出し音が鳴らないうちに応答があった。
「柊です。今時間ありますか?」
『はい、もちろん大丈夫です』
「実はですね――」
何がもちろんなのかは敢えて聞かずに要件を伝えていく。
『なるほど。承知いたしました。部下に指示を出したらすぐに向かいます』
「えーっと、忙しいなら明日とかでもいいんだけど」
『問題ありません』
「あ、はい」
本人が大丈夫と言うのであれば大丈夫だろう。
家電製品やベッドなど、日本で買える便利で快適なものは俺たちで用意するが、それ以外の家具や内装まわりはこちらの人間に任せたい。
通話を切れば、十分くらいで外観だけ完成した建物からメサリアさんが現れた。
「シュウ様。ご無沙汰しております」
「ああ、来てくれてありがとう」
丁寧にあいさつをするメサリアさんが、周囲を見回して目を丸くしている。
「ちなみにここはどこなのでしょう」
おっと、いろいろと説明を端折りすぎたかもしれない。
家を建ててヒノマルの本拠地も建てるとは言ったものの、どこに建てるのか説明をしていなかった。
「というわけです」
「………………理解できませんが、事情は分かりました」
眉間に皺を寄せるメサリアさんだったが、うんうんと頷くと顔を上げて建てたばかりの屋敷へと目を向ける。
国を脅して土地をもらったと言われても確かによくわからない。どうしてこうなったんだろうか? まぁいいか。
「家を取り仕切る執事と、メイドは二名ほどいれば十分でしょうか。料理人や庭師もいたほうがいいですね」
なんだかんだと12LDKほどになってしまった屋敷である。家を囲う壁はまだ作っていないので、どこからどこまでが庭なのかはまだ判別できないが、全部自分の土地なのでやりたい放題だ。
「なるほど。やっぱりそれくらいの人員がいるんですね」
エルがギブアップするわけである。そう考えると今までも結構きつかったんじゃなかろうか。
「使用人として探す奴隷ですが、シュウ様ご自身の目で確認されますか? ステータスやスキルの鑑定までできるのであれば、掘り出し物も見つけられると思いますが」
「ふむ……」
人員確保もメサリアさんに丸投げしようと思っていたけど、言われてみれば確かにそうだ。奴隷といえども犯罪奴隷以外はある程度人権が保障されているので、死にかけの奴隷を安く買って治療みたいなテンプレは起こらないだろうけど。
「なんでしたら、主要な街の奴隷商にギルド員を派遣しますので、次元の穴から覗き見されますか?」
「え?」
いちいち奴隷商に顔を出しに行くのが面倒だなぁと思っていたら、メサリアさんから素晴らしいアイデアが出てきた。ギルド員なら目印にできるスマホを持っているし、そこに向けて次元の穴を開けば視線が通る。映像越しは無理だが直接見ることができれば鑑定はできるのだ。
「本拠地用にも奴隷を何名か使用人や雑用として雇いたいので、ついでにお願いします」
むしろそっちが本命だったのかもしれない。
「はは、了解だ」
奴隷の値段に糸目は付けないが、隠れた才能の発掘はできるに越したことはない。こうして各地の奴隷商をめぐることになった。
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