第131話 船で沖へ出よう
モグノフと名乗ったおっちゃんに連れられて、港に停泊してある船へと乗り込む。サイズは十メートルちょっとくらいの小型船だろうか。
動力としては魔石を電池代わりにしたスクリューが船の後方に取り付けられている。港に並ぶ船に帆が付いていないものも多かったが、帆が付いていない他の船も同じだとか。
「ほー、その歳でCランクの冒険者とは驚きだな」
速度を上げる船から身を乗り出して海面を見つめる。沖へ出るほど海底が深くなっているようだ。
「はは、絡まれることも多くて困ってますけどね」
「がははは、そりゃ見た目が子どもだしな」
悪びれもせずに言葉にするモグノフだが、事実には違いない。むしろ悪意のないあっけらかんとした性格には好感が持てる。
「はは、まぁ実際に大人になったって気はしないけど」
高校生は日本じゃれっきとした子どもだ。この世界だと十五歳で成人らしいけど、環境が変わったから『はい、今から大人です』となるわけでもない。でもちゃんと独り立ちはしてると思うし、結婚もしたし、徐々に慣れていけばいいと思う。
「そりゃまぁ、ある日を境に大人って実感するのは無理だわなぁ」
何か遠い目をしながら物思いにふけるモグノフ。
「それはともかく、もうここまで来れば魔物除けの影響はないと思うぞ」
ふと陸地へと視線を向けたモグノフが、船の動力を停止して錨を下ろす。
「わかりました」
さっそく莉緒と二人で釣り糸を垂れる。後ろからニルが覗き込んでくるけど、そんなにすぐ当たりを引くわけもない。そもそも干し肉がエサでいいのかもわからないからだが……、ってすぐそこに漁師がいるんだから聞いてみればいいじゃないか。
「ん? あぁ、このあたりで釣れる魚は基本何でも食うからな。干し肉でも問題ないと思うぞ」
「それを聞いて安心しました」
「はは、まぁ、ちゃんと釣れることを祈るよ」
苦笑と共に、モグノフは俺たちと同じように釣り糸を垂らした。さすが漁師が使っているだけあって、ちゃんとした釣竿だ。リールが付いていてしっかりと海底の魚も狙えるようになっている。
「うーん。さすがにもうちょっと遠いところを狙いたいなぁ」
「あはは、街でちゃんとした釣竿を調達すればよかったのに」
「まぁそうなんだけど。でも市販の釣竿って、あんまり強度が――」
などと莉緒とくだらない話をしている間に釣竿に反応があった。
「お、何かかかった?」
「え? ほんと?」
そこそこの暴れっぷりのようだが、特製の釣竿と糸はそう簡単に折れたり切れたりするような代物ではない。ゆっくりと釣竿を引き上げると、そこには三十センチくらいの魚がかかっていた。
鋭い歯を持った、全体的に青く光を反射する魚だ。真ん中に一本赤い筋が入っているのが特徴的だ。
「よしっ」
「あ、私もきた」
「がははは! さっそく釣れたようでなによりだ」
船の上へと引き上げると釣り糸を外す。魚の種類はわからないけど、生きは良さそうだ。ビチビチと暴れる魚を放置してエサを針につけると、もう一度海へと投げ込んだ。
莉緒が釣り上げた魚も同じ種類かな。多少小ぶりではあるが見た目は同じに見える。
「おいおい、釣りあげたらすぐに締めないと逃げられちまうぞ」
「えっ? ……あっ!」
モグノフの言葉に釣り上げた魚を振り返ると、大きく飛び跳ねて船の向こう側へと消えたところだった。
「あっ」
「がははは! その釣竿見て思ったが、お前ら釣りは素人だな?」
「あはは、わかります?」
「そりゃ、そんな不格好な釣竿見せられたらなぁ」
苦笑いで答えると呆れ顔で肩をすくめられた。
「しゃあねぇなぁ。魚の締め方でも教えてやるよ」
「いいんですか」
「まぁ別料金だがな」
いい人だなぁと思いつつ聞いてみると、ニヤリとした表情でそんな言葉が返ってきた。師匠からは魚の捌き方なんかは習ってないので、教えてくれるならありがたい。
「じゃあお願いします」
「おう、任せておけ。金次第じゃいろんな魚の捌き方まで教えてやるよ」
「ホントですか!」
「がはは、もちろんだ」
「では、あとでたくさん教えてくださいね!」
嬉しそうに莉緒が声を上げると、釣りあげた魚をそのまま異空間ボックスへと仕舞う。
「おぉぅ、異空間ボックスか。また珍しいもの持ってるなぁ。でもんなところに放り込んだら死んじまって鮮度が落ちるぞ?」
「時間停止の異空間ボックスなので大丈夫ですよ」
「……はぁっ!?」
一瞬何を言われたのかわからなかったのか、間があってから驚愕の声が上がる。大口を開けたまま動き出しそうになかったので、また釣り針にエサをつけて再開だ。
「そういや肉の塊もあったな……」
異空間ボックスから何かの生肉の塊を取り出して、適当な大きさにカットすると釣り針へと仕掛ける。
「ちょっと大きすぎない?」
「大物釣れたら面白そうじゃね?」
「ふふっ、そうかもね。じゃあ私も試してみようかな」
しばらく水中を漂う肉塊を船上から眺めていると、ようやくモグノフが復活したようで声を掛けられる。
「時間停止……だと? そりゃまたすげぇ魔法を使えるもんだなぁ……。がはははは! だがしかし、そんなに大きなエサで大物を引っ掛けても糸が切れちまうだろ!」
「ははっ、それはたぶん大丈夫だと思いますよ」
「うん?」
訝し気な声を上げるモグノフに自信満々に答える。
だってメタルスパイダーの糸ですから。
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