第132話 大物を釣りまくれ

 しばらく生肉を眺めていたところ、ちらちらと大きい魚影が見えるようになってきていた。やっぱり大きめの生肉の塊というエサがいい仕事をしているということだろうか。


「にしてもでかくね?」


 数メートルくらいの魚影に見えるからびっくりだ。地球にもこれくらいのサイズの魚はいないことはないだろうけど、人力では釣れないだろう。


「がははは! 無事釣りあげられたらこいつの捌き方はタダで教えてやるよ」


 『無理だろうけどな』というセリフが後ろに続きそうな雰囲気がするけど、むしろそんなこと言っていいんですかと聞き返したくなったくらいだ。言質は取ったぜモグノフ。


「じゃあお願いしますね!」


 内心ニヤリとしていると、獲物が生肉にかぶりついた。

 すごい勢いで釣竿が引っ張られるが、リールなんてついていない釣竿なのですぐに体ごと持っていかれそうになる。

 両足で踏ん張るが今度は船が傾いてきた。


「うおおおおおぉぉ! ちょっ、待っ!」


 言葉にならない言葉で慌てるモグノフだけど、言いたいことはわかる。このままだと船が沈みそうなのだ。よく見ればかかった獲物は三メートルくらいの魚だ。釣竿を引く力は生半可なものではない。


「こりゃいかん」


 船の上で踏ん張るのは諦めて、空中へ浮かび上がる。


「うええぇぇっ!?」


 海上に浮かびながら船が壊されないように離れていく俺を見て、モグノフから変な叫び声が上がる。

 よくよく考えれば沖で釣りをするのにわざわざ船を出してもらう必要なかったな。いやでもモグノフにはいろいろ教えてもらったし、意味がなかったわけでもないか。


「がんばれー」


 莉緒からは気の抜けた応援の声が聞こえてくる。


「ここまでくれば逃げられることもないかな」


 慎重に引き上げる必要もないとなればあとは力づくでいこう。ゆっくりと上昇すると、徐々に魚が海面から顔を出す。

 かと思いきや、さらに海底から大きな影が勢いよく迫ってくる。


「うおっ!」


 大きな影は、今まさに釣りあげようとした三メートル超えの魚を一飲みし、そのまま俺にも食らいつこうと飛び出してきた。

 咄嗟に後ろに下がって回避したが、まさか海面から飛び出してくるとは思わなかった。

 気配察知で海中に大型の魚がいるのはわかっていたんだけどなぁ。――だがしかし。


「そんなに釣り上げて欲しいなら釣ってやるさ!」


 海面から飛び出してきた、七メートルは超えそうなサイズの魚の目元に掌底を叩き込んで気絶させると、そのまま異空間ボックスへと仕舞いこむ。釣り上げた三メートル超えの魚も暴れるので大人しくさせると、船の上へと横たえる。


「今日は大漁だね」


「ははっ、まだ三匹しか釣ってないけどな」


「あはは、確かにそうね」


「でも簡単に釣れるしホントに大漁になるかもな」


 船のサイズからすると、この三メートルを超える魚はちょっとギリギリだ。口から釣り針を外すと同じく異空間ボックスへと仕舞う。


「よし、次だ次」


 生肉を取り出して釣り針に引っ掛けようとしてからはたと考え込む。


「……どうしたの?」


「いや、今のままじゃ魚の群れがいる深さにまで届かないと思って」


「そうね。釣り糸そんなに長くないし」


「目一杯引き上げても釣り針が海面から出ないとダメだと思ってたけど、さっきみたいに宙に浮いて空高く引っ張ればよかったんだよな」


「じゃあ釣り糸伸ばそうか?」


「おう、そうしよう」


 異空間ボックスからメタルスパイダーの糸を取り出すと、釣竿の糸を延長する。結構水深もありそうだし、二十メートルくらいにしておいた。莉緒は十メートルくらいを狙うようだ。ついでに釣り針も大きい物に替えると、さっきよりも大きめの生肉を針先に引っ掛ける。


「よし、完成!」


 船から飛び出して水面から一メートルくらいの位置で静止し、糸を垂らして魚がかかるのを待つ。生肉を遠巻きにする気配が感じられるが、すぐにかぶりつこうとはしない。

 ちらりと船の向こう側に視線をやると、莉緒も俺と同じように釣り糸を垂れていた。


「な、な、なんじゃそりゃああぁぁ!!」


 今までずっと固まっていたモグノフがようやく復活したのか、船から叫び声が聞こえてきた。


「なんで糸切れねぇの!? ふつうあんなにデカい魚は釣竿で釣れねぇよ! 大型船を持ってるやつらが苦労して釣り上げるレベルじゃねぇか!?」


 港に浮かんでいた船を思い出してみるが、確かに十メートル近くのサイズの魚だと苦労するのかもしれない。地球のクジラだって二十メートル超えのやつがいるんだ。異世界の海だったら、もっと大きい奴だっているだろう。


「おっ?」


 そうこうしているうちに海中の気配に動きがみられる。どうやらこっちをめがけて一直線に迫ってきているやつがいるようだ。

 だんだんと俺の足元の影が大きくなってくる。直接俺を食おうとしてるんだろうか。二回目ともなれば避けるのは簡単だ。ギリギリまで引き付けると、獲物が海面から顔を出した瞬間にさっと後ろへ避ける。


 目の前に見えていた船が、海面から飛び出てきた魚で隠れて見えなくなってしまった。


「ぎゃああああ! 食われよったぞ……! 大丈夫か!」


 その向こう側からモグノフの叫び声が聞こえてくる。俺は食われてはないが、向こうからみれば俺が食われたように見えたのかもしれない。


「大物二匹目ゲットだぜー」


 俺としては海産物が釣れまくりで嬉しい限りだ。

 自分を餌にすれば釣竿がなくても釣れると気づいた俺たちは、常識外の出来事に騒ぐモグノフを尻目に魚を乱獲するのであった。

 ちなみに巨大魚を鑑定をしてみたが、一番高いステータスで3000台だった。

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