第122話 ミミナ商会と独身最後の日
冒険者ギルドを後にした俺たちは、さっそくミミナ商会の様子を見に来ていた。
「なんか一気に寂れたように見えるな……」
「そうね……」
一応開店はしているが、どんよりとした空気が漂っているようにも見える。というのも店先に立つ店員さんのやる気が全く感じられないからだろうか。というかそんな盛大にため息つかなくても。
でもまぁ人がいるならちょうどいい。
「あのー、すみません」
「はい? なんでしょう」
頭の禿げあがった神経質そうな店員に声を掛けると、愛想笑いもなく面倒そうな表情が返ってきた。まったくもって商売する気があるんだろうか。
「支部長のトチリアーノさんはいらっしゃいますか?」
ここはもう単刀直入に聞いてしまおう。結婚の儀は明後日なのだ。それまでに邪魔が入りそうなものは排除しておかなければならない。
「あぁ、トチリアーノですかい。あいつならクビになりましたよ」
「えっ?」
「まったく、余計なことをしてくれたもんですよ……」
驚いていると店員さんから愚痴が次々と飛び出してくる。半分以上は何を言ってるのかわからなかったが、利子を三倍にしたことは商業ギルド規定からも違反だったようだ。商会をクビになっただけでなく、損害賠償を請求されて借金を背負ったとか。
「へー、そうなんですね」
「ええ。なので奴はもうここにはおりません。今ごろ借金奴隷にでもなってるんじゃないですかね」
「わかりました。教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ。あ、もし見かけることがあれば殴っておいてください」
「あはは……」
とりあえず明言は避けてその場を離れたが、結局どこにいるかはわからないということか。
「商会でも相当嫌われてたのかしらね……」
「そうかもしれないなぁ」
「ちょっと気配察知さんにがんばってもらおうか」
トチリアーノの気配ってどんなだったかな。きっちりと覚えた気配は探れるけど、あいまいなやつはどうだろうな。
気配察知のスキルを街へと広げていく。広範囲に広げてもあまり遠くまで距離を伸ばせないので、細長く伸ばした気配察知範囲をぐるっとゆっくり一周回す要領で探っていく。この街もけっこう広いから大変だ。
「うーむ……。なかなか難しいぞ」
「ファイトー」
あんまり心の籠っていない莉緒の応援だが、わかれば儲けもの程度の気配察知だ。気楽にやろう。……っと、これかな?
「それっぽい気配が引っかかったぞ」
「おお、そうなんだ。行ってみる?」
「んだな。せっかく見つけたし」
というわけで気配のする方向へと向かうことにした。といってもミミナ商会の裏側すぐそこだ。裏と言っても細い道というわけでもない。大通りからひとつくらい裏に行ったところで、そこそこ広い賑わいのある通りだ。
「あれは……、なんだろうな?」
「……奴隷商に見えるわね」
「あ、やっぱり?」
遠目に見えた建物を指さしてじっくりと観察した結果、莉緒にもやはり奴隷商の建物に見えるらしい。というか看板があるからね。
とても高級感漂う建物で、想像していた奴隷商と違って清潔そうだ。衛生管理のなっていない、重苦しい空気を纏った場所というのはラノベの中だけなんだろうか。いやさすがに外観は綺麗にしておくのは当たり前か。
「うーん、ここまでわかったらもういいかな」
「そうね。わざわざ奴隷商の建物の中にまで入らなくてもいいわよね」
うん。というかあんまり入りたくない。
「よし、じゃあ引き上げるか」
「ええ」
今後この気配が外に出るようなことがあったときに顔を確認しよう。商会をクビになった商人だ。そこまでの影響力ももう残ってないだろうし。話を聞いた通り、借金奴隷になっているのは間違いなさそうだ。
というわけで明後日までのんびりすることに決定した。
その翌日。珍しくニルを連れて一人で街を歩いていた。なんだかんだ言って魔の森で二人になってから、単独行動というものをしたことがなかったので新鮮な気持ちだ。
マリッジブルーというわけでもないけど、莉緒から提案されての別行動だ。今更感もあるけど、独身最後の単独行動だ。
うむ。これはこれで、明日結婚するんだって実感が湧いてくるな。
「こんにちは」
「いらっしゃいませにゃー!」
というわけでサプライズプレゼントを探しに、フルールさんのお店へとやってきた。
「指輪を探してるんだけど置いてます?」
「はい、こちらになりますにゃ!」
元気のいい猫耳店員さんについていく。ニルは店の前で待機なのでおやつをあげておいた。
「どういった指輪をお探しですかにゃ?」
「今度結婚する彼女にプレゼントしたいんです」
「おおっ、それはおめでとうございますにゃ! ちなみに予算はいかほどですかにゃ」
おっと、そういえば予算は考えてなかったけど、お金だけはあるからなぁ。
「んー、予算は考えなくていいので、おすすめがあれば何でも教えてください」
「ええっ!? か、かしこまりましたにゃ!」
店員さんに話を聞くといろいろと指輪にも種類がある。ただのアクセサリから魔道具になっているものまでさまざまだ。もちろんサイズ自動調整の指輪もあった。正直サイズがわからないので、自動調整付きでお願いしておく。
「候補はこんなところか」
「にゃはは……」
いろいろ注文を付けていたら金額が跳ね上がってきたけど気にしない。
「よし、決めた。これください」
指輪を決めた俺は、意気揚々とお店を出るのだった。
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