第121話 レイヴンへの帰還

 スマホを満充電することには成功した。

 どうもケーブルを刺す必要はなく、スマホの近くで電気を発生させると充電することができるようだ。未来のスマホだとは思っていたけど、まさかワイヤレスで充電できるとは思っていなかった。


 しかし喜んだのも束の間である。

 電源は入ったけど、ロックが解除できなかったのだ。なんなの生体認証って。指紋はわかるけど、虹彩ってなに? カメラが起動したけど顔を映せばいいの?

 いやしかし、スマホが日本語表示だっただけでも収穫ではあるのか。どちらにしてもこれ以上はどうしようもないと諦めた。




 商都をそれなりに堪能した俺たちは、職人の街レイヴンへと帰ってきた。またもやフルールさんの護衛依頼を受けて一緒に帰ってきたが、復路は盗賊に襲われることもなくすんなりと昼過ぎには到着した。


「今回もありがとうございました」


 ラシアーユ商会へと無事に到着すると、フルールさんから護衛依頼の完遂票を受け取る。


「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


 結婚の儀に出席するというフルールさんとは、もともと一緒にレイヴンへ移動する予定だったのだ。それをわざわざ護衛依頼を出してくれたので、Dランク依頼もついでに一回達成となる。


「結婚の儀は明後日でしたよね?」


「はい。午前中から神殿に向かおうと思ってます」


「ふふ、おめでとうございます。楽しみにしていますね」


「ええと、ありがとうございます?」


 何を楽しみにされてるのかわからず疑問形になってしまう。一度見学したときは特に何もなかったけど。

 お店の中からは威勢のいい声が聞こえてくる。


「いらっしゃいませにゃー!」


 なんかどこかで聞いたことあるような。


「新しい人でも雇ったんですかね?」


「ええ、そうみたいです」


 ちらりと店の中を覗いてみると、ホットパンツスタイルのもふもふ猫耳と尻尾の店員さんが見えた。あの人確かミミナ商会の店員さんだったんじゃなかったっけ。

 莉緒と顔を見合わせるとなんとなく頷き合う。あとでミミナ商会がどうなったか見に行ってみよう。


「それじゃそろそろ行きますね」


「はい。またよろしくお願いしますね」


 フルールさんと別れたあとは、以前泊まっていた宿を確保してギルドへと向かう。

 カウンターで依頼の完了報告と共に、完遂票とギルド証を手渡す。


「はい。確かに護衛依頼の完了を確認いたしました。少々お待ちください」


 と言いつつも職員がカウンターの裏へと引っ込んでいくが、すぐに戻ってくる。


「ではこちらが報酬となります。お受け取りください」


「ありがとう」


「ギルド証をお返ししますね。ランクアップおめでとうございます」


「えっ?」


「えっ?」


 ギルド証を受け取ろうと伸ばした手を止めて、莉緒と二人で職員の顔へ視線を向けてしまう。


「あれっ?」


 職員からも戸惑いの表情が返ってきた。

 ランクアップってことは俺たちCランクになったってことか?

 とりあえず伸ばしかけた手を伸ばしてギルド証を受け取る。よく見てみると、確かに『Cランク』の記載があった。


「ふむ」


「……そういえば前に、一度も護衛依頼を受けたことのない人物はCランクにはできないって言ってたわね」


「ああ、俺たちがDランクになったときの話か」


「うん」


 思い出してきたぞ。ニルを従魔にするようなやつを低ランクのまま置いておけないって話だったか。確かここのギルドマスター権限でランクアップになったんだったか。

 俺たちが自己完結しそうな雰囲気を察して、職員がホッとした表情に変わる。なんというか、ちゃんと説明してくれる日本を思えば、異世界って適当だよなホント。


「あ、はい。護衛依頼を達成したのでランクアップをとギルドマスターが……」


「そういうことならまぁいいかな」


「うん」


「では、改めてランクアップおめでとうございます」


「はは、ありがとう」


「Cランクになると強制の指名依頼が出されることもあるので説明させていただきますね」


「強制?」


「はい」


 ひとまず職員の話を聞くとこうだ。

 街の存続にかかわるような非常事態になった場合に発せられる依頼がこれにあたるらしい。もちろん断ることはできないんだが、それでも依頼を受けなかった場合はランクの降格、最悪はギルドから除名処分になるんだとか。

 魔物の大襲撃事件ともなれば逆に逃げ出したくなりそうなものだが、それで逃げるようなら強制依頼のかからないひとつ下のランクに下げますよってことらしい。


「また貴族様から出された指名依頼も、ギルドでは強制依頼という扱いにしています。さすがにこちらは断っても降格や除名にはならないですが、貴族様からの依頼ですので受けていただきたいですね」


 なるほど。やっぱり貴族というのは厄介な存在らしい。貴族出身の冒険者もいないことはないが、一般的には平民が多いのだ。余計なトラブルにならないに越したことはないってことか。


「わかりましたー。まぁ理不尽な依頼でなければ受けますよ」


「ええ、できればお願いいたします」


 商業ギルドにも登録した今となれば、正直冒険者ギルドはどうでもよくなっている。そうでなくても狩った魔物は直接商会でも買い取ってもらえるし。

 どっちにしろ実際に依頼がきてから考えればいいか。

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