第105話 天然物の破壊力

「くそっ、なんてことしてくれるんだあの野郎!」

「ぐああぁぁぁ、飯食ったばっかりだってのに腹減ってくんじゃねぇか!」

「ぐごぎゅるるる~」


 料理をしていると周囲からうめき声が聞こえてくる。最後のは声というより腹の虫だった気がしないでもないがまぁいいか。


「おいおい、こんなところでそれを出してくるとか……」


「ある意味拷問だ」


「あらあら、すごくおいしそうね」


 竈を作っていると、以前フェンリルの村に向かっていた途中で食べた天狼茸を思い出したのだ。焼くだけだしいいかなと思って天狼茸を焼いてみたんだけど、失敗したかもしれない。


「なるほど……。果物の果汁をかけるとは新しい発見ですね」


 レモンのような酸っぱい柑橘系の果汁をかけたところ、フルールさんに驚かれた。


「合う合わないはあると思いますけど、いろんな果汁を試してみるといいかもしれませんね」


 莉緒も果汁をかけながらフルールさんと料理話に花を咲かせている。


「な、なぁ……。金は払うから、あたしたちにもわけてくれないか?」


 天狼茸を焼く横で鍋をかき混ぜていると、アリッサさんから話を持ち掛けられる。

 たくさんあるから別にかまわないけど。どっちがいいかな?


「天然物と普通のと両方ありますけど、どっちにします?」


「今焼いてるのは天然物ですね。このサイズと香りですと、一本二万フロンといったところでしょうか」


 フルールさんが商人としての目線で値段を付けてくれる。いくらで売れるかわからなかったので、目利きしてくれるのはありがたい。


「に、にまん!?」


「天然物だったのか……」


「あらあら」


 二万といえば、Cランクの依頼一回分の報酬くらいだろうか。Cランクの皆さんであれば払えない額ではないだろうけど、一仕事分の値段を夕飯一食分にもならない茸に払うかどうかは微妙だ。

 顎に手を当てて考え込むアリッサさんだったが、すぐに決まったのか笑顔で告げてきた。


「じゃあ普通のやつで頼む」


「わかりました」


 といっても普通の天狼茸のほうが在庫が少なかったりする。でもまぁいいか。


「どうぞ」


「ありがとう」


 フルールさんに目利きをしてもらいその値段で取引を行うと、アリッサさんたちは嬉しそうに焚火で天狼茸を炙り始めた。


「それにしてもさすがに土魔法の使い方がお上手ですね」


 竈を作り始めたときフルールさんが真剣にその様子を見ていたと思ってたけど、そのことかな。


「そうですかね」


「はい。魔法瓶の作り方の参考になるかと思ったんですが、さっぱりわかりませんでした」


「あはは」


 一応職人さんには直接レクチャーはしているんだけど、なかなか魔法瓶を作るのは難しいらしい。壁を厚めに作ってその中を真空にするだけなんだけどなぁ。軽さを目指せば壁を薄くする必要があるので難易度は上がる。でも最初の商品だしそこまで高級路線にいく必要もない。


 というかレクチャーするのならともかく、あまり時間のない中で作る竈は一瞬で作ってしまった。参考になるものは確かにないかもしれない。


「とりあえず鍋も出来上がったので食べましょうか」


「そうですね。……ではいただきます」


 莉緒が鍋からお椀によそってフルールさんへと手渡す。

 結局選んだ料理は鍋だ。適当に材料を突っ込めばそうはずれのない美味しい鍋が出来上がる。


「ありがとうございます」


 ランベルさんにも渡すと次は俺に回ってきた。


「サンキュー」


 もうひとつ別に用意していた大鍋をニルの前に置いてやると、すごい勢いで食べだした。相変わらずの食べっぷりである。鍋に顔を突っ込んでるけど熱くないんだろうか。




「護衛となれば、夜は交代で見張りをする必要がある。こればっかりは少人数パーティーだと不利になるな」


 野営用ハウスを出さずに土魔法で簡易小屋を作ったあと、アリッサさんと夜の見張りをしながら、夜の護衛について話を聞いていた。

 隣にニルもいて、その背中を撫でる手は止めることはない。もふもふはサイコーである。


「あ、それなら大丈夫ですね。魔の森で野営をしてたときは、莉緒と二人交代で見張りをしていたこともあるので」


「魔の森……? 聞き間違いか……? まぁいい。見張りで魔物を警戒するのはもちろんだが、近づいてくる人間にも気を付けないとダメだ」


「人ですか」


 盗賊の類もいるだろうが、冒険者の中には同業者から金品を巻き上げるような輩もいる。詐欺を働く商人もしかりだ。


「ま、初対面の人間ほど信用できないものはないからな。そこはしっかり気を付けるように」


「わかりました」


 変に絡んでくる人間はいるものだし、詐欺に至っては商業国家に入ってすぐに被害に遭ったばっかりだ。そこは気を付けるようにしよう。


「まぁ……、あの従魔がいれば迂闊に近づいてくる人間などそうそういなさそうだがな……」


 くわっとあくびをしながら寝そべるニルを眺めながら、アリッサさんが呆れたような口調でため息をつく。


「それに、ギルドで聞いていた通りあんたらは優秀だな。昼間に街道わきに顔を出した動物にもいち早く気づいてたみたいだし、ほとんど教えることがなかったよ」


 肩をすくめながら話をするアリッサさんだったが、彼女の話がまったく役に立たなかったということはない。


「ためになる話はたくさんあったので、俺たちとしては助かってますよ」


「そうかい」


 結局今日は野営ハウスを出さないことにした。軽く土魔法で寝床と屋根は作ったので、アリッサさんたちには驚かれたが。

 今では寝ている間も気配察知が仕事をしてくれるので、よほどのことがない限りは交代で見張りはしなくなったが。だけど、護衛をするときは見張りをするようにしようと思った俺であった。

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