第104話 護衛のイロハ

 ニルの紹介も終わると、改めて商都へ向けて出発だ。

 アリッサたち三人は、商都を中心に活動する『くれないつるぎ』というパーティーとのこと。主に護衛の仕事を受けることが多いらしく、今回も護衛の仕事で商都からレイヴンへ来た帰りの仕事を探していたところだったとか。


「にしてもあんたたち、Dランク冒険者だったんだね」


「最近なったばっかりですけどね」


「だろうねぇ。それで初の護衛依頼を受けたってわけだ」


 自分で受けようと思ったわけじゃないけど、まぁいい機会だと思ったのは確かだ。


「にしても、馬車で移動すると聞いてたから馬を用意したんだけど、あんたらはどうするんだ?」


 いざ街を出ようとしたとき、厩から馬を連れてきた三人が首を傾げている。確かに商都まで二日と聞かされたけど、馬車を使った場合の時間だよな。走れば問題ないし、なんなら空を行けばたぶん数時間で着くから、移動手段については特に何も考えていなかった。


「そういえばそうでしたね。元々はわたしたちの馬車に同乗してもらおうと思っておりました」


「あ、そうなんですね」


 フルールさんの言葉にちょっとだけ安心する。何も考えてなかったとか暴露するのは、護衛として頼りなさすぎるだろうか。


「ふむ……」


 アリッサさんはその言葉に何かを考え込んでいるようだが、結論が出たようで続きを言葉にする。


「まぁ今回はあたしたちがいるし、ここらは治安もいいから問題ないか……。というわけであんたらは予定通り馬車に乗ってていいぞ。本当はダメなんだが、今回はしょうがない」


 詳しく話を聞くと、護衛は周囲を威圧するのも仕事だとか。安全を確保するには襲われないことが一番だからして、見た目護衛がいないというのはありえない。

 まったくもっておっしゃる通りで。


「あんたらの場合見た目がガキだしな。どうせ外に出て護衛してても、盗賊どもにはカモにしか見えないだろうよ」


 な、なんだって……。


 メルさんの言葉に周囲のメンバーをぐるっと見回してみる。莉緒より背が低い俺だが……、フルールさんにランベルさん、女性冒険者の三人を順番に見回しても、誰一人として俺より背が低い人物がいない。


「つまり、私たちに護衛をしてほしいと思う依頼人はいないってことですか?」


 莉緒から疑問が飛ぶが、アリッサさんが真剣な表情でゆっくりと頷いた。


「初対面だとそうだろうね。だけどあんたたちには従魔がいるだろう? そこを依頼人がどう受け止めてくれるかだね」


「なるほど……」


「まぁそろそろ出発しようか。続きは休憩中にでも教えてやるよ」


「わかりました」


 そうして出発前にいくつかアドバイスをもらった俺たちは、フルールさんの馬車の荷台に足を掛けて商都へと向かって街を出た。




 二度目の休憩を挟んだ後、なぜか俺は馬に乗っていた。もちろん乗馬なんて今までしたことないし、乗れないので二人乗りだ。そう。俺は今、アリッサさんの前に乗っているのだ。

 馬車を挟んだ反対側では、莉緒がメルさんの前に乗っていろいろレクチャーを受けている。


「しかし、二人乗りでいろいろ教えてやるって言ったときのリオの表情はすごかったな」


 野太い声が後ろから聞こえてくる。もちろん皮鎧を着ているのだからして、背中にアリッサさんの柔らかい感触などは感じたりしない。振り向かなければ絶対に後ろにいるのは男と思ってしまう状況である。


「あはは」


 俺と同乗するのがアリッサさんだとわかったとき、莉緒の表情が緩んだのは俺しか気づいてないだろう。魔法使いだけあってローブを着たフレリスさんは、もう雰囲気が大人の女性という感じで俺にも抵抗があった。でもアリッサさんならそこまで抵抗がなかったと口にするわけにもいかない。


 それに俺たちには、護衛任務についてレクチャーを受けるという義務があるのだ。断るという選択肢はない。


「別に取って食うわけでもないんだから安心しろって言っておいてくれるかい」


「はは……」


 実際に食われでもしたら大変だ。全力で抵抗しないと……。いやでもフレリスさんに迫られたらちょっと自信が……って俺は何を考えてるんだ。落ち着け俺。莉緒ひとすじじゃないか。


「それじゃ、真面目に護衛について話をするとしますかね」


「……あ、はい」


 後ろから聞こえてきたアリッサさんの声に我に返ると、護衛のイロハについて詳しく話を聞きつつ北上を続けた。

 にしても乗馬関連のスキルは生えた気がするな。




 特にトラブルもなく、今日の野営場所へと到着した。護衛の初心者である俺たちがいるからか、到着はかなり遅くなった。先着している他のパーティーもいるため、空いている隅の場所を確保する。ニルを見てギョッとされるが、騒がれないのはいいことだ。


「うーむ」


「どうした? 護衛は初めてにしても、野営くらいはしたことあるだろう?」


 野営用ハウスを出すかどうか悩んでいたところに、アリッサさんから声を掛けられた。


「いやまぁ、そうなんですけどね」


 護衛じゃなかったら問答無用で野営用ハウスを出してるんだが、護衛される側からすれば、護衛にデカい家に引きこもられるのはダメな気がする。まずは夕飯の用意だし、護衛用ハウスはあとで莉緒と相談するか。


「ウフフ、とりあえず夕飯の用意をしましょうか。時間もないですし、軽く済ませましょ」


「そうですね」


 手っ取り早く済ませるか……。ということは夕飯は何にするべきか。


「護衛依頼によっちゃ、依頼主が飯を提供してくれる場合もあるからね。アタイたちは各自で済ませるけど、ちゃんと依頼内容を事前に確認しとくんだよ」


「なるほど。わかりました」


 それだけを告げると三人は少し離れた場所で、馬の世話を始めている。

 そういえばニルの世話ってどうすりゃいいんだろうな。ご飯あげて毎日きれいに洗ってはいるけど、ブラッシングとかした方がいいんだろうか。まぁ今度考えよう。


 夕飯はというと、今回の依頼では俺たちが提供することになっている。レシピをいろいろ実演するためという理由があるけど、ちょっとこの短時間じゃ披露できるレシピもないかもしれない。


「新鮮な食材はあるけど、ちょっと時間が足りないかもね」


 莉緒も同意見らしい。


「だなぁ」


 作る料理がまとまらないまま、とりあえず俺は土魔法で竈を作り始めた。

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