第87話 まさかのスキル発動
「こっちは大丈夫ですよ!」
目の前に居座る魔物から視線は外さずに、後ろにいる冒険者へと声を掛ける。
にしても……。
「莉緒、前に会った天狼ってこんなにデカかったっけ」
思わず聞かずにはいられない。もし違う個体だったら、この狼がこの森から出てきたのは俺たち無関係ってことだよな。
「こんなサイズじゃなかったと思うわね……」
「だよね。1.5倍くらいのサイズになってる気がするよな」
「うん」
莉緒の言葉にちょっとだけ安心するが、咥えている骨がちょっとだけ引っかかる。ありゃ何の骨なんだ。
グルルルと唸り声を上げる狼だが、三本ある尻尾がなぜかフリフリと揺れている。って三本もあるんだ。
「無事なら今すぐ逃げろ! ここは俺たちが引き受ける!」
狼の向こう側では冒険者パーティーが慌てた様子で声を掛けてくる。引き受けると言う割には、こちらを向いて後ろ姿を晒している魔物に一撃を入れようとはしていない。
「ふ、フローズヴィトニルだと……」
「なんだって!?」
「おい、お前、今すぐギルドへ走れ! ギルドマスターへフローズヴィトニルが出たと知らせるんだ!」
「えっ、あ……」
「急げ!!」
「はいぃぃぃ!」
向こうは向こうで慌ただしそうだ。森の奥から出てきた冒険者が怒鳴り込んでいる。急げと怒鳴られたのは森の前で監視していた冒険者だろうか。後ろを気にしながらも全速力で街へと走り出した。
自分の後ろで行われているやり取りなんて気にならないのか、狼はまっすぐ俺を向いたままだ。
「フローズヴィトニルってなんだ……。天狼じゃなかったのか」
=====
名前 :なし
種族名:フローズヴィトニル
説明 :突然変異で天狼が特殊進化した狼タイプの魔物。
空を駆ける性質はそのままに魔法も操る。
その素早さは何者も捉えることはできない。
毛皮の滑らかさは極上の一品。
=====
「おぉっ!?」
「……どうしたの柊?」
莉緒も魔物から視線を外すことなく、だが俺の声が気になったのか声をかけてきた。
「鑑定したら、天狼が特殊進化したフローズヴィトニルって出てきた」
「ええっ?」
「それよりも、鑑定スキルがレベルアップしたみたい」
「ホントに!?」
「詳細説明が見えるようになった」
鑑定で見えた説明を莉緒にすると、莉緒がため息とともに顔を顰める。
「魔法も使えるんだ……。これは厄介そうね」
色んなものを鑑定しまくりたいところだが、そうも言ってられない。目の前に現れた魔物をどうにかするのが先だ。……にしても俺を見つめたままさっぱり動かないな。後ろにいる冒険者も動き出さないけど。むしろあんたらのほうが逃げて欲しいくらいだ。
動き出さないからと言ってこのままじっとしているわけにもいかない。隣の莉緒から魔力が溢れてきたかと思うと、ありったけのバフが掛けられる。
「サンキュー。ほんじゃ、行きますか」
久しぶりの強敵に内心でワクワクしつつ、グッと足に力を込める。そして飛び出そうとした瞬間。
「わふぅ!」
足元に骨を置いてひと鳴きし、お座りして激しく尻尾を振りだした。
「んん?」
目をキラキラと輝かせて、足元に置いた骨をてしてしと前足で突っついている。
「何あれ……」
「なんだろね……」
思わず莉緒と顔を見合わせてから魔物へと視線を戻すと、口元からよだれを垂らしていた。
俺たちを食う気ではなさそうだけど、腹減ってそうだな。というかもうエサくれと言ってるようにしか見えなくなってきた。
何気なしに地面に置かれたデカい骨を鑑定してみると。
「ぶほっ」
思わず吹いてしまった。
「ちょっ、どうしたのよ柊」
「いやごめん。あの骨鑑定したんだけど、『グレイトドラゴンの背骨』って出たから……」
「えぇっ!? ……それって!」
天狼の森にはグレイトドラゴンなんて棲息していないし、もう森のど真ん中で会ったアイツで確定だよな……。うーん、やっぱ俺たちが街まで引き寄せちゃったのかなぁ。
尚も激しく骨をてしてしと突っつく魔物にため息が出る。そんなにエサが美味かったのか。まぁグレイトドラゴンもそれなりに強力な魔物だしな。ギルドの職員も、ランクの高い魔物は美味いって言ってたし。
「しゃあねぇな。もう一匹やるか」
「あー、うん……、やっぱりアレって食べ物要求してる仕草……だよね」
それを思うとだんだんかわいく思えてくるな。
「ほらよ」
異空間ボックスから小さめサイズのグレイトドラゴンを出してやると。
「「「「「はぁっ!?」」」」」
後ろにいる冒険者から奇声が上がり。
「わふううぅぅぅぅ!」
狼は歓声を上げて近寄ってくるとグレイトドラゴンに食らいついた。その瞬間、俺の中の何かが狼とつながったような感覚が生まれる。
「うん?」
それを確かめるように狼へと俺も近づいていく。
「柊?」
莉緒が声をかけてくるけど、手で制して大丈夫だと伝える。
「危ないぞ少年!」
冒険者からも声が飛んでくるが無視だ。
そのままグレイトドラゴンにかぶりつく狼の目の前までやってきた。顔は俺の体と同じくらいのサイズがあり迫力満点だ。足も俺の体と同じサイズの太さくらいある。
「確か極上の滑らかさだったよな」
なんとなく大丈夫だと直感した俺は、そのゴツイ足を撫でる。
「おうふ。ナニコレ」
すげーもふもふでふかふかなんですけど。
ひたすらグレイトドラゴンに貪りつく狼の足を撫で続けるのだった。
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