第88話 はじめての従魔
「おい……、大丈夫なのか」
恐る恐るといった感じで冒険者パーティーの面々がこちらに近づいてくる。まだ武器を構えたままで警戒は怠っていないようだが。
とはいえ俺も大丈夫かどうか確固たる確信があるわけではない。なんとなく大丈夫な気がする程度だ。この狼とはつながりができた気がしているだけだ。
「たぶん大丈夫ですよ」
知らんけどな。という心の声は口に出さないでおく。
なんとなくこの狼からは飯が美味いといった意思が伝わってくる。俺たちに飯をたかりに来ただけなのか。
「私も触りたい」
冒険者に返事をしていると、莉緒も一緒になって毛皮を堪能しはじめた。
ちょっと今のうちに狼が咥えていた骨は回収しておこう。後ろの冒険者からは死角になっているのか、回収作業には気づかれていないようだ。
「一体どうなってるんだ……」
「というかそれはグレイトドラゴンじゃ……。どこから出てきたんだ」
どうやら五人パーティーのようだ。見た感じだと、剣士、重戦士、斥候の男性に、魔法使いの二人の女性だ。なかなかバランスのよさそうなパーティーである。
「Bランクで『天狼の牙』というパーティーを組んでるワイアットだ。すまないがちょっと話を聞いてもいいだろうか」
斥候の男がエサを食う狼に注意しながらやってきた。どうやらこの人がパーティーのリーダーみたいだ。
「あーっと、Eランクのシュウです。話せる範囲であればかまいませんよ」
「Eランク!?」
「えぇ!?」
他のメンバーが驚いているみたいだけど話が進まなくなる気がするのでスルーだ。
「えーっとだな……、まずは君たちはなぜここに?」
「集積所の様子を見てくるように依頼があったので」
「あぁ、なるほど……。それだけなら問題はなさそうだな」
ブツブツ呟きながら納得するワイアットさん。
「で、だ。このフローズヴィトニルは……、いったいどうなってるんだ? 見たところ、テイムされてるように見えるんだが」
「あ、やっぱりですか。俺もそんな気がしてました」
「へっ?」
「もしかして無自覚とか……?」
後ろの快活な感じのする女性魔法使いからツッコまれる。
「前に試してみたことがあるんですけどうまくいかなくて。だから初めてなんですよね、成功するの」
あははと苦笑いをしていると、剣士からも「意味がわからん」とツッコまれた。うん、俺も意味わからんです。
「しかし……、Sランクのフローズヴィトニルを従えるとは……、信じられん」
マジで。コイツSランクなの? でかい口を開けてグレイトドラゴンにかぶりつく狼を観察する。シルバーウルフがCランクだろ? その次が天狼で、その次がフローズヴィトニルだと思うんだが……。順番に行けばAだよな。どこかで一段すっ飛ばしてランクが上がるのか?
「それで、その従魔になった魔物が食ってる獲物はグレイトドラゴンに見えるんだが……」
あー、確かにそうだなぁ。まぁ別に隠してるわけじゃないし、別にいいか。
「グレイトドラゴンですよ。以前魔の森で仕留めたやつですね」
「魔の森だと……」
商業国家は直接面していないが、それなりに魔物の巣窟として有名な森だ。知らない人はいないだろう。
「グレイトドラゴンはAランクだぞ……」
ほほぅ。なるほどなるほど。勉強になります。
「とりあえず、ギルドにも報告が必要になる。一緒に来てもらおうか。詳しいことはそこで聞こう」
「あ、はい」
と同意しつつも俺は隣でエサを食い続ける狼をちらりと見る。コイツどうしよう?
「従魔にするならギルドで登録しないとダメだぞ」
「そういえばそうでしたね」
どっちにしろ連れて行かないとダメか。せっかくテイムできたんだし、解放するなんてもったいない。それにこのもふもふは癖になる。莉緒もずっともふもふしたまま帰って来ないし。
しばらくして食い終わって満足したのか、狼はその場で寝そべるとでかいあくびをしている。
「満足したか?」
「わふぅ」
話しかけると返事が返ってきた。サイズがでかいだけあって、耳元で鳴かれるとうるさいな……。
足元に張り付いていた莉緒も、狼が姿勢を変えたからか我に返っている。
「じゃあそろそろ行くとしよう」
「了解です」
俺たちも依頼は達成できたし問題はない。この狼がぶち壊してくれた集積所はラシアーユ商会のところじゃなかったし、何も問題なしだ。『天狼の牙』の皆さんもきっとこれで依頼達成だろう。
食べた後の骨を異空間ボックス仕舞うとまた驚かれたが、今はギルドへ戻ることが先決だ。七人揃って歩き出すと、狼も立ち上がりのそりとついてくる。いやしかしでかいな……。
「お前、でかすぎて街の中まで入ってこれないよね……」
「わふぅ……」
ぼそりと呟くと、聞こえていたのか悲しい声を出して耳が垂れている。
「小さくなれればいいのにね」
莉緒の言葉で今度は耳がしゅぴーんとまっすぐ伸びた。
「わおおおおぉぉぉん!」
一声鳴くと狼の体が発光しはじめる。次の瞬間には大型犬程度のサイズになっていた。
「マジか」
「んなバカな」
便利なやつだな。うん。そのサイズのほうがもふりやすいし、いいんじゃないか。
「小さくなったわね。これでもふりやすくなったわ」
莉緒もいい笑顔で頷いている。
街には入れるようになったけど、宿はどうだろうな? さすがに同じ部屋には入れられないか。まぁそこは宿の人に聞いてみるか。
こうして依頼を達成した俺たちは、意気揚々と街へと帰還した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます