第86話 集積所の調査をしよう

 朝の遅い時間帯に依頼を受け森へと出発した俺たちは、ちょうどお昼ごろに森の手前にある川まで来ていた。川沿いにはいくつかの冒険者パーティーがたむろしており、休憩をとっているようだ。


「森の様子を見に来た連中かな」


「たぶんそうじゃないかしら」


 ここから森までは一時間程度の距離になる。この先では森でBランクの冒険者パーティーが魔物の調査を行っているはずだ。結果次第では森に近寄るのも禁止になるんだろうか。


 気配察知を前方の森方向へと広げるが、範囲内には例の魔物はいないようだ。探知範囲を意図的に伸ばすと、その距離は十キロメートルを超えるのだ。それでも感知できないのであればしばらくは大丈夫だろう。


「とりあえず俺たちも昼飯にするか」


 川沿いの空いている場所を陣取ると、各種調理器具を取り出して料理を始める。本格的に火を起こして調理している冒険者パーティーは周りにはいない。街から近いしお弁当のような出来合いの物で済ませる人たちが多い。


 多少注目を集めつつも昼食を済ませると、森へと近づいていく。

 気配は感じないので特に警戒もせず、森の手前まで来た。


「おい、話は聞いているだろう。森の中へは入るんじゃないぞ」


 入り口で警戒をしていた冒険者の一人に注意される。たぶん森の監視をしている冒険者だろう。異変があればすぐにギルドに知らせないといけないしね。


「あ、大丈夫です。俺たちは依頼で木材の集積所の様子を見に来ただけですから」


「集積所? ならあっちに各商会の集積所が固まってるが」


「ありがとうございます」


「森に異変を感じたらすぐに街まで逃げるんだぞ」


「わかりました」


 思ったより親切な人だった。軽くお礼を言って教えてもらった方向へと向かう。しばらく進むと木造のしっかりした塀が見えてきた。

 初めて森を抜けてきたときに思わず立ち入ってしまった集積所だろうか。いくつか塀で囲まれた集積所があるけどどれがどれかわからない。入り口に商会の名前が書いてあるので目的地を間違えることはないけど。

 さすがに未確認の巨大な魔物が出たという情報があったからか、集積所入り口の見張りはいなくなっていた。


「ここかな?」


「みたいね」


 フルールさんから預かった鍵で扉を開ける。中に入ると枝を取り払われた木材がたくさん置かれていた。


「へぇ、すごいわね」


 まっすぐ伸びた太い木材がほとんどだが、微妙に歪んで曲がっている木材もそれなりに置いてある。一番太い木材で直径三メートルくらいはありそうだ。特に荒らされたような感じはしない。


「確か太めの長さ五十メートル前後の木材を十本ほど、だったっけ」


「うん。そう言ってたわね」


「よし、ちゃっちゃと収納して帰るか」


 適当に歩き回り、条件に合う木材を異空間ボックスに収納していく。


「こんなもんかな」


「うん。でもいっぱい木材置いてあるわね」


「だなぁ。何本あるんだろ。千以上はありそうだよな」


「そんな集積所が他にもあるんでしょ。自然の森みたいだし、植林をしてるわけじゃなさそうよね」


「森の整備とかしてなさそうだよな。森の入り口あたり、樹とか生え放題だし」


「魔の森の植物も成長率が段違いだったし、ここもそうなのかな」


「だとすると伐採し放題だなぁ」


 身近なところにも異世界の神秘があったなぁと思いにふけりながら、集積所の調査を進める。


「特に異常はなさそうだな」


「そうね。そろそろ帰りましょうか」


 特に問題が起こることもなく、ラシアーユ商会集積所を出て扉に鍵をかける。元の街道に戻るべく、他の集積所の間に作られた道を歩いていると。


「ん? ……あ、来た!」


「えっ?」


 例の魔物の気配を捉えた俺は歩く速度を速めて走り出す。


「もしかして、あの天狼が来たの?」


 隣を並走しながら問いかけてくる莉緒に頷きを返す。俺たちの動きに合わせるようにこっちに向かってきているみたいだ。しかも結構なスピードだな……。しかもそれを追って他にも気配が動いてるな。もしかして調査に出てるBランク冒険者パーティーかな?


「俺たちのほうに向かってるみたいだな……」


「集積所が壊されるかも」


「それはまずい気がする。ちょっと離れようか」


「うん」


 莉緒の言葉に俺たちは道を外れて草原へと出る。しばらく行くと後ろから何かが崩れる音が聞こえてきた。


「うおっ」


 振り向くと集積所あたりから土煙が見える。壊されないように離れた場所まで来たけど、あんまり意味はなかったかもしれない。


「まっすぐこっちきてるみたいね」


「だなぁ、まぁしょうがないか」


 集積所の木造の壁の向こう側に、こちらに向かってくる何かが見える。壁も結構な高さがあったと思うけど、それでも見えるとはかなりでかいな。

 だんだん近づいてきたかと思うと、壁などなかったかのようにぶち破ってそいつが姿を現した。


 ――口にでっかい骨を咥えたまま。


「……骨?」


 莉緒が首を傾げながら呟いている。

 魔物は十メートルくらい離れたところまでくると、俺たちと対峙するようにして停止する。


 その後ろから、魔物を追っていたと思われる冒険者たちも姿を現した。森の前で見張っていた冒険者も近くまで来ているみたいだ。


「なんなんだこいつは……」


 魔物を視界に納めた冒険者が呆然と呟いている。


「こんなにデカいやつは初めて見るぞ」


「あ……、おい、向こうに子どもがいるぞ? 大丈夫か!?」


 俺たちも見つけたらしく、大声でこちらに声をかけてくる。

 そんなに声を出すと気づかれますけど、逆に大丈夫ですかと返事したくなった。

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