閑話2
「う……」
「
目を覚ますと視界いっぱいに芽衣の顔が広がっていた。上体を起こして周囲を確認するが誰もいない。
確か城の訓練場で水本たちがくるのを待ち構えていたんだったか。王女からの命令で戦闘になって……。自分たちの周りだけ地面がえぐれた状態になっているが、これは水本がやったんだよな。
「はは、どうせ無職って思ってたけど、まったく敵わなかったな」
職業っていったいなんなんだよ。何かに就いてれば有利だとか言ってたけど、全然違うじゃねーか。それが異世界の常識なんだろうが、オレたち異世界人には通じないってことなのか。
握りしめた自分の拳を見つめていると、ふわりと優しい匂いに包まれる。気が付くと芽衣に肩を抱かれていた。
「そうだね。でももう大丈夫だと思うよ」
「……何が?」
耳元で聞こえる声に思わず振り返ると、ちょうどそこには芽衣の首がある。忌々しく鎮座する隷属の首輪が――
「あれ? ない?」
「うん。起きたらね、ボクたちの首輪がなくなってたんだ」
自分の首を触ってみるが、確かに首輪の感触がない。あれだけ苦しめられた隷属の首輪がなくなっている。これで王女の命令を聞かなくて済むと思うと安堵のため息が漏れた。
「他のクラスメイトは!?」
「わからない。ボクもさっき気が付いたばっかりだから」
「そうか……」
「とにかく、みんなと一度合流しようよ」
「そうだな」
確か真中たちは表で水本たちを足止めしていたはずだ。合流しようと城へ視線を向けるが、何かがいつもと違う。
「……んん?」
「どうかしたの?」
「いや、何か、城に違和感が……」
「えっ? ……あっ」
芽衣も一緒になって城を観察していると、何かに気付いたようで声が上がる。
「尖塔がなくなってる……」
震える声で呟く声がオレの頭にも沁み込んでくる。そういえば城全体が崩れてるように見える。……ように見えるじゃないな、ホントに破壊されてるじゃないか。
「バルコニーも……」
「何なのコレ」
まさか水本がやったのか? 城がここまで壊れるほどの威力の攻撃が無職の奴に……。いや、無職だからっていうのは何の理由にもなってないな。
「たぶん、水本がやったんだろうな」
「ええっ?」
信じられないように驚く芽衣だけど、そうとしか考えられない。
「実際にあっさりとオレは負けたしな。限界突破がまったく通じないとか、どれだけ化け物なんだって今なら思うよ」
「でも、無職……なんだよね?」
「それなんだよな。無職ってなんなんだろう? この世界じゃ『役立たず』が常識だったみたいだけど。アイツを見てるとそうじゃないことが証明されちまった」
「う、うん」
「とにかく行こう」
まだよく理解できてなさそうな芽衣を連れて、オレたちは真中たちの元へと急ぐ。
城の中は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。城が破壊されたとなれば仕方がないと言えるが、急ぐオレたちに声を掛けてくる者はいない。王女直属の精鋭部隊という扱いのオレたちに指示を出せる人間はそういないのだ。
「真中!」
城の中庭を、外へと向かう真中たちの後ろ姿を見つけて声を掛ける。
「ん? あぁ、清水か」
「無事だったみたいだな」
「……清水たちもな」
「はは、まったくだ。それで……、どこへ行くんだ?」
「どこって、そりゃこの国から逃げるに決まってるじゃん。せっかく首輪がなくなったんだし」
「そうよ。それにもうこの国も終わりでしょ」
何を当たり前のことをと言わんばかりの真中に、火野は感慨深げに破壊された城を見上げている。真中の言うことはオレも同意だが、その前に確かめたいこともある。
「……根黒はどこにいるか知らないか?」
「へっ? 根黒? ……知らないけど、何かあったのか?」
やっぱり知らないか。オレも王女から話を聞いて初めて知ったくらいだから。詳しく話してやると、真中たちからも怒りの声があがっている。だけど根黒への同情というよりは、ロクなことをしない王女への怒りが大半を占めるようだけど。
「戻ってきてるらしいから、ちょっと根黒を探してみるよ」
「……そうだな。何考えてるかよくわからない奴だけど、一応クラスメイトだしな」
真中の言葉に嫌そうにする火野だが、しょうがないかという感じで頷いている。首輪がどうなってるかわからないのはあと根黒だけだ。根黒だけ王女に縛られたまま、オレたちが自由にするのも寝ざめが悪い。
最悪、まだ首輪をはめた根黒にオレたちが狙われる可能性も考えられる。
「じゃあ行こう」
こうしてオレたちは根黒を探すべく城へと戻っていく。
しかし、どれだけ城の中を探しても根黒が見つかることはなかった。
ただ、忙しくしている城内の人に聞くところによると、確かに根黒はさっきまで医務室にいたらしいということがわかっている。部屋も確認したがもぬけの殻だ。ひどい怪我だったらしいが、いなくなっていることを考えると動けるようにはなったんだろう。
結局根黒の行方はわからないまま、オレたち六人は王城を抜け出して王国を出ることにした。
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