閑話(第一部)
閑話1
「はっ!?」
目が覚めると城の医務室だった。あれから何があったんだっけ。確か王女様に水本柊と莉緒ちゃんを殺せって命令されて。
それで確か、隙が大きかった莉緒ちゃんに襲い掛かって刺しちゃったんだっけ。でも水本に返り討ちにあって……。
思い出したところで寒気に襲われて震えあがる。あれはもう二度と経験したくない。
確か反撃をまともに受けて気を失ったんだっけか。そこからあんまり覚えてないけど、ちゃんと生きてるみたいだ。
「あれ……、どこも痛くないぞ」
途中で何回か目を覚ましたけど、そのときは体中が痛くて動けなかったような……。でも治ってる? なんでだろう。誰かが治癒魔法かけてくれたのかな?
いやちょっと待てよ。これは……。
「あ……、莉緒ちゃんの、魔力を感じる……」
刺した相手の莉緒ちゃんの魔力がなんで……。もしかしてぼくを治療してくれたのは莉緒ちゃん? だとしたらどうして……。
――まさか。
はは、そんなまさか。でもそれしか考えられないよなぁ。
実は莉緒ちゃんはぼくのことを好きなんじゃないかって。だって刺しちゃったんだよ。それなのに治療をしてくれるなんて、ぼくのことを好きじゃないとできないよ。
絶対にそうだ。間違いない。
「あはは……、あはははは!」
確信を得たぼくの笑いはもう止まらない。
アサシンという職業を得たとき、やっぱりぼくには闇の力が宿っていたのかと落胆した。だけどそれも運命だったというわけだ。ぼくと莉緒ちゃんを赤い糸で結ぶためのね。
「こうしちゃいられない」
医務室のベッドから飛び降りると急いで自室へと向かう。莉緒ちゃんと一緒にいる水本はどう出てくるかわからない。しっかりと対策をしていかないと。
それに王女に見つかって他の命令を下される前に城を出ないといけない。あの二人の暗殺命令が出ている間であれば、また二人の元へ行くことは命令違反には……。
「……あれ?」
自室へとたどり着いたところでようやく違和感に気が付いた。今まで感じていた命令を遂行しなければならない使命感がまったく感じられないのだ。思わず首元へと手をやると。
「…………ない」
ベッドへと座り込みよく考えてみる。なぜ隷属の首輪が外れているのか。
王女が外した? いや、それはありえない。あの傲慢な王女が、自分の犬を自ら放出するはずがない。だけど外せるのは王女以外に考えられないし。
「はっ、もしかして!」
これも愛の力なのか! きっと莉緒ちゃんが自身の力をすべてぶつけてこの首輪を解除してくれたんではないだろうか! そうでないと今のぼく自身に、莉緒ちゃんの魔力の残滓が感じられるなんてありえないだろう?
「くふふふふ」
だというのになぜ莉緒ちゃんはぼくの前から姿を消したんだろうか。そこまで僕のことを愛してくれているのであれば、姿を消す必要なんてないはずなのに。
そこまで考えたところでひとりの男の姿が脳裏をかすめる。
そう、ぼくに大けがを負わせた水本柊だ。
そういえばアイツは莉緒ちゃんと一緒にいたよな。なんでだろう。莉緒ちゃんはアイツについていったってことだよね。……ついていかざるを得なかったってことか。
あぁ……、そういうことか……。
いくら考えてもその可能性しか浮かばない。
「水本……柊!」
お前のせいか!
きっと莉緒ちゃんは水本に囚われているんだ。ぼくが隷属の首輪をはめられてたみたいに、莉緒ちゃんを縛り付ける何かがあるはずだ。絶対に助け出してあげるから、待っててくれ!
こうしてぼくは王城を飛び出して旅に出た。
水本という魔王に囚われた、愛しの莉緒ちゃんを助け出すために!
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