第57話 中枢への侵入
改めて城内を見回してみると、すでに二本の足で立っている者はいなくなっていた。正直クラスメイトは大したことなかったな。こんなこと言うと清水と長井が実は強者だったっていうフラグになりそうなので口には出さないが。
「あーすっきりした」
なんとも清々しい表情で莉緒が伸びをする。
うめき声がそこら中から聞こえるこの場所には似つかわしくない、満面の笑顔だ。場違いだろうがなんだろうが、莉緒の気が済んだのならそれでいい。
「よし、じゃあ行くか」
「うん」
「ま、待て……」
ヘニングがなんとか立ち上がり、それでも俺たちを止めようと立ち塞がる。
「あんたもしつこいね。まだやる気なの?」
「無論だ……。たとえ魔剣が折れようとも、私の心が折れない限りは……、何度でも――」
「ライトニングボルト」
「ぐぁっ!」
喋ってる途中で悪いけど邪魔しないでくれるかな。どうせ第三王女の居場所を聞いたところで教えてくれないんだろうから、もう黙ってていいよ。
「さ、行こうか」
今度こそ力尽きて倒れ伏すヘニングをしっかり確認すると、笑顔で莉緒を振り返る。もうすぐでこの、国から狙われる状況が解消されるかもしれないと考えると、気分も明るくなるというものである。
莉緒と二人手をつないでデート気分で城内の道を歩いていく。途中でY字に分かれる道があったが、城へと向かう方向へ進んでいくと大きな馬車ロータリーへと到着した。
このあたりまでくるとさすがに戦闘の跡は見られないので綺麗なものだ。
「うわー、すごいなぁ」
ロータリー中央には池があり、今も噴水から水が噴き出している。地面は綺麗に石畳が敷かれており、見た目も美しい。城の入り口は大きく開いていて、馬車が三台くらいはすれ違わずに入れそうだ。
「お邪魔しまーす」
入り口をくぐると自然と声が出た。
「ようこそいらっしゃいました」
「うおっ」
てっきり誰もいないと思っていたところに、ピシリと執事服を着こなした人物が深いお辞儀で出迎えてくれていた。まったく気配を感じなかったんだけど……。
「これは驚かせてしまったようで申し訳ございません。……本日はどういったご用件でしょうか」
緑色の髪をきっちりと固めた、浅黒い肌をしたイケメンである。怪しさは満点であるが、即襲い掛かってこないだけマシだろう。とりあえず聞きたいことを聞いてみるか。
「えーっと、リリィ・アークライト第三王女に会いに来たんだけど、どこにいるかご存じです?」
「リリィ・アークライト王女殿下でございますか?」
瞳をきらりと光らせ、探るような視線を向けてくる。
「あ、はい。ちょっと直接返したいものがありまして」
莉緒の言葉にピンとくるものでもあったんだろうか。合点がいったという表情になる。
「お名前をお伺いしても?」
思ったより丁寧な対応に莉緒と顔を合わせる。名前はすでに知られてるから問題ない。莉緒と共に名乗るとなぜかきちんと話が通っていた。
一昨日様子を見に来たときにトービルへと伝えはしたので、むしろ正しい対応なんだろうけど逆に怪しすぎてどう対応していいかわからん。もしかして罠なんじゃないだろうか。
「あぁ、これは失礼を。話はトービルから聞いておりますので」
「そうなんですね……」
いやホントあの人マジで話を通しておいてくれたのか。いい人すぎるだろ。というかむしろ俺たちなんぞの話を通すとか逆にバカなんじゃないかと思ってしまうくらいだが。
「トービルさん……、大丈夫なんでしょうか?」
莉緒も心配そうに首をかしげているが、まさにその通り。いやでもそれこそが罠という可能性も無きにしも非ずだな。
案内された場所が俺たちを嵌めるための部屋とかだったりしたら目も当てられない。また魔の森なんぞに飛ばされたら……、って今なら大丈夫かもしれないけど。
「ではご案内いたしますのでこちらへどうぞ」
そう色黒の執事姿のイケメンが言うと、こちらに背を向けて城の中へと歩いていく。素直についていっていいものか迷うが、莉緒と二人で頷き合うとやっぱりついていくことにした。
どうせどこにいるか手掛かりはないんだ。だったら案内してもらっても問題ないだろう。
廊下をしばらく歩くと右へ左へと連れまわされて、もうどこから来たのかよくわからなくなってきた。時間を稼がれてるような気がするけど、城も広いだろうしなぁ……。
「莉緒……、ここから帰れって言われたら帰れる?」
もう戻れないことを素直に白状すると、莉緒からは苦笑いが返ってきた。
「あはは……、私もちょっと自信ないかも……」
「だよね」
「ご安心ください。お帰りの際はわたくし自らお見送りさせていただきますので」
かなり小さい声で話してたと思うんだけど、しっかり声を拾われてしまった。このイケメン、マジで油断ならんな。というか騎士団長とかよりもよっぽど強そうな気がするんだけど、何者なんだろうか。浅黒い肌と言い、実は魔族とか言わないよな。角は魔法で隠せるらしいし……。
「えーと、よろしくお願いします?」
すげー気になってきた。そういえばネタで買った魔道具があったよな……。
こっそりと『真実を映す鏡』を取り出すと、執事を映してみる。
「マジか」
側頭部から左右に対で生える角が見えてしまった。
「あちらでございます」
頭が真っ白になってる間にどうやら到着したようである。
光が射しこむ出口へと導かれると屋外へと出る。そこは野球ができそうなくらい広い場所だった。一部には観客席のように段差のついた座席状のものもある。
「まさかホントに来るとはね……」
聞き覚えのある声が聞こえてきたと思えば、そこには予想通り
いや正直、アークライト王国の中枢に魔族が入り込んでたことに比べたら、お前らのことなんてどうでもええわ。
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