第58話 邂逅
衝撃の事実に頭が付いていかない。城の内部に入れる魔族がいる時点で、もうこのアークライト王国は終わったなという感想しか出てこない。
魔王を倒すとかよく言えたな。
「のこのこと自分からやってくるなんて、手間が省けましたわね」
二人のクラスメイトの後ろから、目的の人物であるリリィ・アークライト第三王女が話しかけてきた。四か月ぶりに会うが、確かにこの顔は第三王女本人である。こいつがすべての元凶かと思うと腹も立ってくる。
「そっちこそ、隠れてればいいのにわざわざ出てきてくれてありがとう」
「ふん」
クラスメイトと戦わせるだけなら自ら出てくる必要もないはずだ。それとも護衛となるクラスメイトと離れるのを渋ったのか。騎士とか護衛に使えばいいのにと思うけど、それになぜこんな場所でわざわざ俺たちを待ち構えているのか。
いろいろとわからないことだらけではある。
「とりあえず聞いておきたいことがあるんだけど」
「ちょっと待てよ」
というところで清水に遮られてしまった。
「なんだよ……」
しぶしぶと清水に向き直ると、何やらお怒りの様子である。俺何かしたっけ?
「お前たちがここにいるってことは……、真中たちはどうしたんだ?」
「ん? そりゃぶっ飛ばしてからここまで来たに決まってんだろ」
俺の言葉に若干青ざめた様子で清水が言葉を続ける。
「まさか……、殺した……とかじゃないよな?」
「殺してねーよ」
たぶん死んでないと思う。
ちらりと莉緒を見るが、うんうんと何度も首を縦に振っている。クラスメイトをぶっ飛ばしたのは莉緒だけど、まぁ俺が答えても問題ないだろ。
「そうか」
安堵の息を漏らす清水と長井の二人。そんなに俺たち物騒な奴と思われてるんだろうか。
にしても根黒のことは何も聞いてこないのか? それともそこまで親しい間柄でもないとか? ちらりとリリィ王女を一瞥するが、特に表情を変えることもない。
「つか根黒と一緒にすんじゃねぇよ」
「……は? ……何のことだ?」
「聞いてねぇの?」
「……だから何をだ!」
ここまで話してもまだ王女の表情は変わらない。清水たちは知らないようだけど、根黒のことを知ったらどう反応するんだろうな。
「莉緒が殺されかけたんだよ。根黒にな」
「なん……だと?」
愕然としていた清水が鋭く王女を振り返る。だけど王女の無表情は相変わらずだ。
「本当なのか!?」
「黙りなさい」
「――ッ!」
王女が一言告げたとたんに清水が口をつぐむ。
すげぇ何か言いたそうなんだがなんなんだ。王女の命令は絶対なのか……って、んなわけねぇよなぁ。なんか今にも王女に襲い掛かりそうな雰囲気だし。
ちらりと長井を見ると、こっちは何かを諦めたような表情になっている。無気力というべきか。
「まったく……、殺せたという報告を聞いたのに、なぜ五体満足で現れるのよ。……タクト・ネグロは瀕死の重傷で戻ってくるし、完全に失敗じゃないの」
不満たらたらにぶつくさと呟いているが、その言葉を聞いた清水が目を見開いてこっちを睨んでくる。
「――!!」
だけどやっぱり何もしゃべらない。
首に巻いてるチョーカーって、実は隷属の首輪とかそんなアイテムな気がしてきたぞ。いくら清水でも、黙れと言われてそう簡単に黙るもんでもないだろ。
って鑑定したらマジで隷属の首輪だし。こりゃ第三王女は真っ黒か。召喚という手段で俺たちを誘拐して、奴隷にするとか何を考えてんだ。
「つまりアンタは、俺たちを殺そうとした真犯人ってわけだ」
なんでコイツはこんなに堂々と自白してるんだ? どうせ俺たちはここで死ぬ運命だからとか考えてるんだろうか。それとも権力で握りつぶすのか。
なんで俺たちを殺そうとしてるんだろうな。同じように隷属の首輪はめたらそれで済む気がするんだが。
「それがどうかしたかしら」
「へぇ……、あなたが、柊と私を殺そうとした真犯人なのね」
認めた瞬間に、莉緒の目が鋭くなる。
「わざわざ殺されに来てくれてありがたいわ」
ニヤリと口元を歪める第三王女にますます苛立ちが募る。
「他のクラスメイトはターゲットじゃないようだが……、どうして俺たちを殺そうとするんだ」
「さて、どうしてかしらね」
そう簡単には教えないってか。肝心なところがわからなくてもやもやする。
「二人とも、もう喋っていいわよ。メイ・ナガイは私を守りなさい。マサヨシ・シミズは……、あの二人を殺しなさい」
命令された二人が早速動き出す。長井は王女と共に後ろに下がって防御魔法の詠唱を始め、清水が腰に提げた剣を引き抜いて前へと出てきた。
「ちっ、聞きたいことはいっぱいあるが命令されたからにはしょうがねぇ。手加減はできないからな。逃げるなら今の内だ」
隷属の首輪の強制力すげーな。
いや今はそんなことより、清水のことだ。鑑定を掛けると職業が聖導騎士と出た。長井は大賢者だ。聖を導く騎士ってなんだろうな。何ができるのか想像できない。にしても結局勇者って職業はいなかったのか。根黒は鑑定してないけど、アレが勇者とは思えないしな。
――何にしても。
「ここは俺が行く」
莉緒にばっかりいいところを持っていかれるわけにもいかないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます