第56話 制圧完了
「まだやるの?」
大鳥がワルデマールを治療したそうにチラチラと視線を投げてはソワソワとしている。暗にヘニングへ、ここで止めれば治療できるぜと伝えてみるが。
「当たり前だ! このまま終わらせてはアークライト王国近衛騎士団の名折れではないか!」
騎士団はまだまだやる気のようだ。
ちらりとクラスメイトも見てみるが、こっちは腰が引けているように見える。
「くそっ、無職と無能じゃなかったのかよ……! こんなの聞いてねぇぞ!」
文句を垂れている真中だが、その後魔力を練り始めて多少のやる気は見せている。
「行け勇者ども! こういう時に役に立たなくてどうする! ホノカはワルデマールの治療だ!」
ヘニングがそう叫ぶと、織田と火野もそれぞれ得物を構える。魔法剣士らしく火野は詠唱を始めた。大鳥は治癒魔法をかけるべくワルデマールへと駆けていく。
にしてもこの団長さんも化けの皮が剥がれてきたっぽいな。さっきは「殿」付けだったのに「ども」に変わってら。勇者と言ってもここではどんな待遇だったんだろうな?
「早く第三王女のところに行きたいんだけどな」
「行かせるわけがなかろうが!」
引く気を見せない相手にため息とともに呟くと、すぐさまヘニングが遮ってくる。いちいち答えてくれなくてもいいんだが。
って後ろから何か来るな。かなり薄い気配だけど例の黒装束のやつらかな。
「じゃあ早く終わらせようよ」
「そうするか」
莉緒は気づいていないみたいだけど問題ない。莉緒と背中合わせになるように後ろを振り向くと、短剣を振りかぶって投擲しようとする黒装束二人と目が合った。
速射重視で瞬間的に魔力を練り上げ、アースニードルを二発ずつ放つ。避けられることは想定済みだ。だけど時間は稼げた。次は数を重視してアースニードルを準備する。
「莉緒はそっちお願い。一斉掃射で行く」
「わかった」
同じく莉緒も俺に合わせてアースニードルを周囲に浮かべ始めた。下級魔法だけど、魔力をつぎ込めばつぎ込むほど、威力と数が増えるので使い勝手がいい。威力を上げればマーダーラプトルの皮膚も貫くけど、そこまでは必要ないだろう。
一斉掃射ならそこまで制御が不要なので数も稼げる。とりあえず1000発くらいいっとこう。莉緒のは……多すぎて数える気にならないな。
短剣を投げつけられる前に、アースニードルを避ける隙間がないようにばら撒く。ズドンと大砲でも発射したかのような大音量と共に大量の石の針が同時に飛翔していき、黒装束の二人をあっけなくぶっ飛ばした。
「莉緒?」
振り返ると莉緒はまだアースニードルを浮かべていて、撃ちだしてはいないようだった。
「こっちはまかせて。ちゃんとぎゃふんと言わせてやるんだから」
言ってる間にも火野は詠唱を完了させ、織田とヘニングは獲物を構えて迫ってきている。
「アイスジャベリン!」
最初に向かってきたのは真中の氷の槍が五本だ。コマンドワードだけで発動したっぽいが、真中も無詠唱を使うんだろうか。莉緒が数十発のアースニードルで撃墜すると、お返しとばかりに追加で500発くらいのアースニードルが真中へ飛んでいく。
青い顔をしながら石の針に穿たれて吹き飛ぶ真中を眺めていると、莉緒が一歩踏み出して織田の振り下ろす斧に石の針を集中砲撃していた。
「デュフッ!?」
斧が持ち手より上の部分でへし折れて、刃先が後方へと吹き飛んでいく。
必死の形相をした火野が、火属性でも付与したのか赤く光る剣を真上から振り下ろす。莉緒は手のひらに氷を生み出してこれを受け止めると、赤い光が徐々に弱くなっていく。同時に石の針を織田と火野の二人へと発射して吹き飛ばした。
「ぎゃあああぁぁぁ!」
火野は当たり所が悪かったのか、織田より出血量が多い気がする。体格は織田の方がいいのになんでだろうな?
最後にヘニングが大剣を下方に構えて突っ込んでくる。咄嗟に莉緒が異空間ボックスから取り出したのはひと振りの脇差風の刀だ。
あれって切れ味だけを追求して冗談で作った、土魔法製の武器じゃなかったっけ……。脆かった記憶があるけど大丈夫なのかな。
「これで終わりだ!」
ヘニングの持つ大剣に魔力が集まりぼんやりと光を放つ。
莉緒も脇差へと魔力を大量に込め、火属性を付与し、さらに真空の刃を纏わせ、ありったけの強化を施している。
武器の強化で遊んだこともあったけど、一撃しかもたなかったから諦めたんだよな。だけど自分で作れる土属性製品だったら問題ないか。
ヘニングの大剣が動き出し始め、振り切られる前に莉緒の刃が振り下ろされた。魔法使いとはいえ、莉緒もそれなりに成長率マシマシだ。様になっている構えから振り下ろされた刃は、ヘニングの大剣を切り飛ばすと同時にへし折れた。
反撃する隙を与えずに呆然とするヘニングへとアースニードルを叩きつけ、ワルデマールに治癒魔法を掛けていた大鳥も、莉緒のアースニードルの餌食となっていた。
戦闘中に前衛がやられたらさっさと逃げないとだめだぞ。
「ふん」
鼻息荒く莉緒がドヤ顔を披露すると、あたりに静寂が訪れる。
なんか、いいところ全部もっていかれたんですけど。にしてもやっぱり莉緒は器用だな。
あとは俺たちを包囲しているその他大勢だけだ。掃除するためにアースニードルを1000発ほど浴びせておいた。
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