第32話 待ち伏せ

 翌日も朝から混み合う冒険者ギルドへとやってきていた。依頼の争奪戦に今後入らないわけにもいかず、まずはしばらく様子見して慣れていこうということになったのだ。


「今日も相変わらずだなぁ」


 争奪戦を眺めながらも朝はどんな依頼が貼られているのか観察する。お金の稼ぎ方がわかったので、以前のような焦りはもう感じていない。やっぱり人間余裕がないとダメだな。


「あ、ほら、柊。ランクDとCの討伐依頼のところにグレイトディアーとマーダーベアーがいるわよ」


「お、ホントだ。あの魔物ってDとCなんだ。へー。グレイトディアーの角の依頼は……10万フロンか。マーダーベアーの肝が20万フロンね」


 依頼とは別にギルドで肉とか買取してもらえるんだろうか。肉だけ欲しい時はどうしたらいいんだろうなぁ。あー、自分で解体すりゃいいか。


「ギルドで依頼は受けないと狩っちゃダメとかないわよね」


「さすがにそれはないと思うけど……。襲われても返り討ちにできないし」


「だよね」


「……あ、今日はEランクの採集依頼の残り物があるな」


 他の人に取られる前に空いてきたボード前まで行ってから詳細を確認してみる。

 えーと、どれどれ。


 アイアンリーフの葉っぱを五十枚集めて欲しいとな。達成報酬が300フロンで、アイアンリーフは一枚50フロンで買い取ると。なるほどなるほど。


「どうせ今日も魔の森行くんだし、受けておく?」


「そうだな。ついでだし、受けとこうか」


 依頼ボードからアイアンリーフの葉っぱ依頼を剥がすと、カウンターで受け付けてもらった。


「よし、今日ものんびり行きますか」


「おー」


 ギルドを出て中央広場を通り、北門へと向かう。北門から出るときに門番さんに、


「お、今日はカバン背負ってるな。ちゃんと準備できてるようでよかった」


 と言われてしまった。そういや前回は、装備以外手ぶらだったかもしれない。ちょっと反省。


「あはは、行ってきます」


「おう、気を付けてな」


 アイアンリーフは名前の通り、鉄のように固い葉っぱだ。草なんだけど、だいたい一束で三枚くらいの葉が取れる。さすがにこれを五十枚となると、だれも依頼をやろうという気にならなかったのか。


 前回と同じ道筋をたどり魔の森へ到着すると、前回と同じやり方でレグルスの実とアイアンリーフを探していく。ただし前回よりスピードアップして距離を稼ぎ、さらに奥地まで探索した。今回も同じくして魔の森で一泊だ。


 もちろんグリーンウルフのテイム実験も継続だ。また逃げられたけど今日は噛みつかれなかった。きっと進歩しているはずだ。知らんけど。


 当然魔物も狩った。というか襲い掛かってくるんだから仕方がない。今回仕留めたのはランドタートルという1.5メートルくらいの亀と、アイアンアントという八十センチくらいの蟻が大量と。あんまり大量なのでこれは持ち歩いて帰らないようにしようか。あとは同じくグレイトディアーだ。こっちはこないだのよりちょっと小さいかもしれない。


「よう、また会ったな」


 二匹の獲物を引きずったふりをして街に帰る途中、どこかで見覚えのある冒険者三人組と遭遇した。前衛に弓職と斥候の、この間絡んできた冒険者たちだろう。


「えーっと、今度はどんな用でしょう?」


 明らかに待ち伏せしていた三人組だ。声までかけてきて、これで俺たちに用がないはずがない。


「いやなに……、こないだの借りを返させてもらおうと思ってな」


「借り?」


 何かを貸した覚えはないが、返してくれるらしい。というかまぁ、単にやり返しに来ただけだろうけど。


「グレイトディアーとランドタートルか……。そこそこやるみたいだが、どちらにしろ新人には変わりない」


 すらりと腰に下げている剣を抜くと、後ろの弓職が弓をつがえ、斥候が短剣を二本抜いて構える。


「すごくやる気まんまんみたいね……」


 莉緒がうんざりするようにため息をついている。


「へっ、そっちの女が素直に俺たちのパーティーに入るってんなら、半殺しで許してやらんでもないぜ」


 それでも半殺しなんだ。


「お断りするに決まってるじゃないですか」


 半殺しという言葉を聞いて、莉緒の言葉に怒りが混じる。ついでに魔力も漏れ出してきた。


「ははっ、勝手に断られてるが、アンタはそれでいいんだな?」


 なぜか念押しのように俺に確認してくるのはなんでだろう。別に俺たち二人パーティーの決定権は俺が持ってるわけでもないんだが。


「まぁ俺も同意見なんで反対する理由はないけどな」


「そうかい。……じゃあ、死ね!」


 半殺しじゃねーのかい。まぁツッコミ入れたところで聞かないんだろうけど。

 莉緒と言えば、相手の殺気の籠った声と同時に魔法を発動していた。アースニードルかな、あれは。

 莉緒の背後に数百という土の針が浮かんでいる。

 相手は弓職がつがえていた矢を放つが、莉緒が浮かべた一部のアースニードルを飛ばして撃ち落とす。


「な、なんだよ……、それ」


 こちらに走り寄ろうとした前衛と斥候が、額に冷や汗をかきながらも足を止めている。


「死ね……、ですって?」


 一歩二歩と足を進める莉緒に追随するように、背後のアースニードルも移動する。


「誰に向かって言ってるのかしら?」


「ひっ!」


「もちろん、殺そうとするからには、殺される覚悟はあるんでしょうね?」


 ちょっと、莉緒さんや、そこまでブチ切れなくてもいいんじゃないですかね。


「私の柊は誰にも傷つけさせないわよ!」


 最後の言葉と共に、背後のアースニードルが順次発射される。相手の足元手前から徐々に着弾位置が近づくように。


「ひああぁぁぁぁ!!」


 前衛の男は持っていた剣を放り投げて全力で逃走を始めた。もちろん残りの二人も続いて逃げ出すのだった。

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