第31話 公衆浴場と高級料理

「おぉ、香辛料が効いてて美味い」


「うん。スープも思ったより出汁が効いてる」


 どこかのラノベで読んだ、煮汁を捨てる食文化じゃなくてよかった。異世界の料理も思ったより美味しい。師匠の料理はまぁ、いかにもなサバイバル料理ってところもあったから、これが初の異世界料理ということで。……自分で作った料理より劣るのはこの際目をつぶろう。


「はー、美味しかった。ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでした」


 宿の食堂は一階のカウンター右側にあり、左側には二階へと上がる階段がある。部屋に戻ろうとカウンター前を通ったとき、看板娘のアーニャから声がかかった。


「今日はお風呂はどうしますか?」


「お、そういえば風呂か……」


 公衆浴場へ行こうかという話を莉緒としてたなぁ。でももう外は真っ暗だし、若干ここから公衆浴場まで遠いんだよな。


「ちょっと今から外に出るの面倒になってきたし、ここでいいかな」


「うん。それでいいわよ。私も今日は疲れちゃったし」


「じゃあそういうことで」


「かしこまりました。用意しておきますね」


「よろしく」




「今日は買い物日和ね!」


 翌朝。莉緒のテンションが高かった。昨日も買い物はしたけど、お金のある時とない時ではやっぱり違うんだろう。俺も今日はテンション高いし、同じだけどね!

 朝食を食べて早速外に出る。今日もいい天気だ。


「まずはどこに行く?」


 目をキラキラさせる莉緒に気圧されながらも、買う物リストを頭に思い浮かべる。


「そうだなぁ。まずは必需品からかな……。投擲用の短剣とか欲しいし、あとは香辛料と……、魔道具も見てみたい」


 師匠の家には魔道具というものは置いていなかった。話には聞いていたが、一般的な魔道ランプとか魔道コンロとかは、自分たちの魔法で代用がきくので必要はない。


「そうね。何か面白い魔道具があるかも。……じゃあまずは武器屋から回りましょうか」


「おう」




「投擲用短剣五十本ですか……、持って帰れますか?」


 武器屋のおっちゃんに確認されたけど、そういえば忘れてた。こないだ下着を買ったときにカバンがいるって気付いたはずなのに。カゴは異空間ボックスに入ってるけど、ここで出すわけにもいかんし。


「なんならカバンも購入されますか?」


「買います」


 即答だった。商売上手なおっちゃんだな。

 にしてもテンション高すぎて忘れてた。莉緒には呆れ顔をされたけど、お互い様だよな。

 リュックタイプの革のカバンを背負い、短剣を詰めて店を出る。結構重い。ちょっと裏路地に入るとカバンの中に手を突っ込んで、短剣を異空間ボックスへと仕舞う。


「はー、軽くなった」


 それからは順調に買い物をして回る。

 香辛料をたっぷり仕入れ、干し肉などの保存食も仕入れ、古着もそれなりに購入した。新しい服は全部オーダーメイドになるので時間がかかるし高いのでやめておいた。

 でもやっぱり女子の買い物は長いという噂は本当だった。


「そろそろ日も暮れるし、今日は公衆浴場に行ってみようか」


「うん」


 宿でタオルと石鹸がレンタルだったので、念のため購入して持ってきている。入り口のカウンターでお金を払うと、やっぱりタオルと石鹸は別料金だった。莉緒と別れて男湯へと向かうと鍵付きロッカーの備え付けられている脱衣所があった。


 このあたりの仕組みは日本の温泉や、異世界の宿のお風呂と変わりはないようだ。服を脱いで浴場へと入る。湯気で全容は見えないが、公衆浴場だけあって宿のお風呂より広くて人がいっぱいいる。


「ここだけ見ると、日本の温泉とあんまり変わらない気がするなぁ」


 ちらほらと耳のとがったエルフがいたり、髪の色が派手な人が多いくらいか。

 壁際に設置してある洗い場へと腰を下ろして蛇口を捻る。魔道具になっているらしく、本来ならお湯が出てくるはずだがすごくぬるい。全身を洗って湯舟に向かうが。


「……なんかゴミが浮いてて汚いな」


 これが公衆浴場だからだろうか。高級宿の風呂には勝てないのか。

 結局お風呂から出る前に、自前の魔法でシャワーをしてざっと洗い流してから上がった。

 風呂から上がってしばらくボケーっとしていると、女湯から莉緒が出てきた。なんとなく憮然とした表情で、もしかすると俺と同じ感想なのかもしれない。


「やっぱり宿のお風呂がいい」


「だな」


 さっぱりはしたけどなんとも微妙な公衆浴場だった。やっぱり値段なりにその理由が反映されてるんだな。


「夕飯もどこかで食べて帰らない?」


「そうするか」


 お高そうなお店を見つけたので入ってみると個室に通された。そういえばこの世界だと十五歳で成人なんだよな。でも日本にいた頃でも特にお酒を飲んでみたいと思ったことはないし、別にいいかな。

 店員さんに本日のおすすめを頼んだら、肉が出てきた。そしてさすがに高級店である。二人でお腹いっぱいまで飲み食いして、550フロンになった。


「今日も肉だったなぁ。まぁ美味しいからいいんだけど」


「そうね。でもそろそろ魚も食べたいかも」


「そうだなぁ。ちょっと探してみるか」


 こうして今後のなんとなくの目標が定まるのであった。

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