第30話 小金持ち
「ほほぅ、立派なグレイトディアーとマーダーベアーですな。どうですかな、この二頭をうちに売ってもらえませんか?」
「ちょっと待て待て! 儂が先に目を付けたんだぞ、抜け駆けはなしだ!」
「いやそれを言うならおれだって!」
何やらわらわらと商人たちが集まってきてしまった。冒険者ギルドまで目立ちながら運ぶ予定だったけどどうしようか。
「柊、どうするの?」
「どうしようか。冒険者ギルドで買い取ってもらうのと、どっちがお得かな」
「もちろん儂の商会ですとも!」
「もちろん
「もちろんおれの商会ですとも!」
あんたら仲いいな。
「じゃあ高い値段付けてくれたところに売ろうかな」
討伐依頼は受けてないし、どうせ討伐報酬はもらえないだろう。依頼達成にならないならギルドで売却する意味もなさそうだしな。
「ならば儂のところじゃな!」
「
「もちろんおれだよな!」
「わたしも参加させてもらおうかしら」
俺の言葉と共に四人で値段の言い合いが始まった。なんか一人増えてるし。しかしどうせならしっかり見てもらおうじゃないか。
「まずはグレイトディアーだ」
「じっくり査定してくださいね」
俺の言葉に莉緒がグレイトディアーを地面へと降ろすと、商人たちが群がってきた。
「こ、これは……立派な角ですな」
「どこにも傷が見当たらないですね」
「血抜きもしっかりされている」
「……内臓は抜かれてないんですね」
しばらくするとさっきまで言い合っていた値段より跳ね上がった額が提示された。ってかマジでそんな値段でいいんですか。だんだん怖くなってきたんだけど。
「50万フロンだ!」
「いいや儂のところは55万フロンじゃな!」
「おれは58万フロン出すぞ!」
「70万フロンで」
その後マーダーベアーも合わせて合計235万フロンで売れました。お買い上げありがとうございました。
「なんだか……、すごかったわね……」
「あぁ……、嵐のようだった」
「しかし四人目の女性商人強かったな」
そうなのだ。結局二匹とも最後に現れた女性にお買い上げいただいたのだ。
「にしても大金貨まで出てくるとは思わなかった」
「あの熊って高かったんだね」
ご飯をケチってお風呂を取ったことがアホみたいに思える大金が手に入ってしまった。これで欲しかったあれこれを買い放題じゃないか!
「だなぁ。そう考えると、俺らの異空間ボックスに入ってる食材ってやばくね?」
ポツリと呟くと、ハッとした表情になって莉緒の顔が少しずつ青くなっていく。
「ど、どど、どうしよう? 怖くなってきちゃったんだけど」
「大丈夫だ。死蔵しとけばバレないだろ」
「そ、そうだよね……」
落ち着くんだ莉緒。そういうときは深呼吸だ。ひっひっふー。あれ、違ったか?
「あとはレグルスの実をギルドに納品しに行こうか」
「うん」
「……の前に宿の確保だな」
「あ、そうだね」
時刻は夕方。北門からギルドはそこそこ距離があるから、急がないと日が暮れる。俺たちは小走りで前回泊まった宿へと向かう。お金に余裕があるので一週間分で部屋を取った。
「はいはいっと。……は? 十五個も取ってきたのか?」
ギルドの買取カウンターにレグルスの実が入ったカゴを置いて数を告げたら、そんな答えが返ってきた。
「はいはい? しかも赤いやつも二個……だと? お前ら森のどこまで奥に行ったんだ?」
「えっ? どこまで……って言われても、どこまでだろ?」
「さぁ?」
莉緒を振り返るが答えが返ってくるはずもなく。
「特に目印とかあるかどうかもわからないんで、どこまででしょうね? 森で一泊野営したんで、一日で行けるところくらいですかね?」
「はいはい、ってか一日だと? んな浅い場所に赤い実があるはずねぇだろうが……」
あ、そうなんですね。ちょっとテイムスキル実験に時間かけすぎたからって、レグルスの実探しに本気出しちゃいました。
「はいはい、実際に現物が目の前にある以上、疑う余地はねぇんだが。……ほらよ、黄色が十三個に赤が二個で4600フロンだ。あとは依頼十五件分の処理をしてもらっておきな」
「はい。ありがとうございます」
お、マジか。これで十五件分の依頼達成になるんだ。もしかしてもうDランクになれたりすんのかな?
ワクワクしながらカウンターへ行ったのだが。
「EからDランクへは、百件の依頼と試験を行っていただきます。また特定の採集依頼と討伐依頼もこなしてもらう必要がありますので」
「あ、そうですか」
「それとシュウ様、宿はどこを取られてるのかお聞きしてもよろしいですか?」
「かまいませんけど……」
なぜ? という目線で続きを促すと。
「ギルドとしては各冒険者の所在を把握しておくことは業務の一つですので」
とても事務的な回答が返ってきた。
「そういうことですか。ちなみに宿は『銀の嘴亭』ってところです」
「ありがとうございます。ではギルド証をお返しいたしますね」
よし、これでギルドでやらないといけないことは全部終わったかな。
「腹減ったし、宿で晩飯にしようか」
「うん。ちょっとどんなご飯が出てくるのか楽しみ」
こうして俺たちは、ひと仕事を終えて宿へと帰った。
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