第29話 街へ帰還
「そろそろ懐いたかしら?」
ぐるるると唸り声をあげる狼の魔物――グリーンウルフの頭を押さえつけ、目の前に肉を置いている。
「おーよしよし」
押さえつけていない反対側の手でグリーンウルフの首元をなでてやるが、身をよじって避けられている気がする。だけど肉が気になるのか、そこまで全力で避けようとはしていないように見える。
「よし、食っていいぞ」
押さえつけていた手を離すと、勢いよく肉へとかぶりついた。
その間、背中を撫でてみるが特に反応はない。肉へまっしぐらだ。
「んー、どうだろうなぁ。食い終わったあとの反応がどうなるか……かな」
見ての通り、テイムスキルが生えるかどうか実験中なのだ。
ガツガツと肉に食らいついていたが、やがて完食となった。口の周りをペロペロとすると、ハッと我に返ったように低い姿勢でこちらを威嚇してくる。
「……失敗なんじゃないの?」
後ろでしゃがみこんでこっちを観察している莉緒がボソリと呟く。
「……いやいや、そんなはずは」
さっきまで俺のこと忘れて肉食ってただろ。さすがに野生の魔物にそこまで無警戒になる瞬間があるとも思えない。これはきっとテイムされているはずだ。
「よしよし――、って痛い痛いいだだだだ!」
ゆっくりと手を伸ばして首をもふもふしてやろうとした瞬間、噛みつかれてしまった。
「あはははは!」
「ちょっ、痛いって!」
あんまり痛いのでイラっとしながらグリーンウルフを引きはがすと、キャインと鳴いてどこかへ行ってしまった。
「――っ!!」
ツボのにハマりすぎたのか、もはや声も出ないほどの勢いで大爆笑だ。こっちは手まで噛まれたってのに……。
「ごめんごめん」
ジト目で莉緒を見ていると、目に涙を浮かべながら俺の手を取ってくる。
「痛そうにしてた割には怪我らしい怪我はないわね」
グリーンウルフの涎でべとべとになった俺の手を水魔法で洗いながら、よしよしと手を
「師匠がいればスキルが生えたかすぐわかるのになぁ」
「柊も鑑定スキル育てればいいじゃない」
「まぁそうなんだけど」
ひたすら鑑定しまくれば育つから、そのうちスキル一覧も見られるようになるんだろうけど。めんどくさいというか、忘れるんだよね。新しいスキルが生えるのは嬉しいんだけど、育てるのはどうも。
まぁ一番の問題は、どこまで育てればスキル一覧が見れるようになるかわからないところにあるんだけど。
「そろそろ野営の時間かなぁ」
「うん。もうここに家建てちゃおうか」
ある程度開けた場所でテイム実験をしていたので、ここを今日のキャンプ地とした。土魔法マジ便利。
最終的にレグルスの実は十五個手に入った。赤い実と思ってたけど、ここら辺では黄色い実が多かった。赤いやつも二個ほど森の奥で見つけてはいるが。蔓で編んだカゴを背負い、そこに実を入れている。
そして獲物である。鹿と熊を仕留めたので持っていこうとしてるんだが、現在思案中である。
「どうやって持っていこう?」
「引きずるしかないんじゃないかしら……」
「やっぱり?」
ここは魔の森の乗合馬車乗り場の広場手前である。このあたりから獲物を異空間ボックスから取り出して持って帰ろうとしているんだが……。
「……魔法で浮かせて持っていこうか」
「目立たない?」
「まぁそうなんだけどね。引きずると毛皮の値段下がりそうじゃない?」
お金のない俺たちには死活問題だ。せっかく傷が少ないように仕留めたのに、狩った後に自分で台無しにするのも勿体ない。
「それは一大事だね」
「だろ?」
「じゃあ行きましょうか」
運搬方法が決まればあとは帰るだけだ。獲物を浮かせると蔓のロープを熊の足首に括り付けて手で持つ。鹿は角にロープを括りつけ、莉緒が持つ。
「うおっ!」
「何っ!?」
広場へと出ると、ちょうど乗合馬車が着いたところだったようだ。降りてきた冒険者たちが驚いている。
「おっと……、あんたらこれから帰りかい?」
ちょうど御者をやっているおっちゃんが、広場へと出てきた俺たちに声をかけてきた。
「はい、これから帰りますよ」
「どうだい、乗ってくか?」
「あー、いえ、歩いて帰ります。金欠なもんで」
「そ、そうかい。……じゃあ気をつけてな」
顔を引きつらせつつも何も突っ込むことなく馬車は街へと引き返していった。馬車から降りた冒険者たちは、どうも俺たちを見ながらひそひそ話しているようだが、こっちに話しかける気はないらしい。
「さっそく目立ってるね」
「だなぁ。でもしょうがない。これもお金のためだ」
「うん」
そして道の途中、すれ違う乗合馬車の乗客らを驚かせながらも街の北門へと帰りついた。
「おお、あんたらだったのか……。昨日の内に帰ってこなかったからちょっと心配してたんだが……。マジでグレイトディアーとマーダーベアーを仕留めたんだな……」
門番にそう声を掛けられながら街の中へと足を踏み入れる。馬車に乗って帰るか声をかけてきたおっちゃんが喋ったのかな。
「しかもなんだそれ……。どうやって持って帰ってきたんだ?」
「それはナイショです」
ロープで獲物を引っ張ってはいるが、その獲物が微妙に宙に浮いているのだ。地面すれすれにしているが、よく見れば浮いているのは一目瞭然だ。
「お嬢ちゃんもすごかったんだな」
そして莉緒と共に街の中を歩いていると、商人たちの視線が集まりまくるのだった。
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