第33話 結婚に必要なもの
「は~、なんだったんだアイツらは……」
大きなため息とともに逃げ去った冒険者を見送る。武器放置して逃げてったけど、拾ってやらないからな。所持してたせいで余計な面倒はごめんだ。
「ふん。まったく……」
莉緒はまだぷりぷりしているようだが、放出していた魔力はすでに収まっている。とりあえず莉緒は怒らせないようにしよう。うん、そうしよう。
「帰ろうか……」
あいつらを追いかける形になってしまうが、行き先が同じなので仕方がない。追いつきたくはないので、いつもよりゆっくり時間をかけて街へと帰りついた。
「お待ちしておりましたわ」
今度は、前回獲物をご購入いただいた女商人が待ち伏せしていた。
「今回はランドタートルとグレイトディアーなのですね。よく見せていただいても?」
「ええ、どうぞ」
断る理由もないので存分に検分をしてもらう。ここで換金できれば荷物も減って一石二鳥だ。しばらく待っていると、二体で116万フロンの値が付いたのでそのまま売却した。
「ありがとうございます。こんなに状態のいい商品が手に入るなんて、滅多にないですからね。ぜひうちの商会をご贔屓にしていただければ」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
女商人――フルールさんはそう挨拶すると、連れていたお供数人に商品を持たせて去っていった。
「よし、あとはギルドだな」
今日も「はいはい」が口癖の買取カウンターのおっちゃんが出迎えてくれる。
「はいはい、今日もレグルスの実が大量だな。……ってかアイアンリーフって昨日張り出された依頼じゃなかったか? もう集まったのか?」
目を見開いて驚くおっちゃんだが、現物があるんだから納得してもらうしかない。
「はいはい、合計で5800フロンだ。確認してくれ」
「ありがとうございます」
そのあとはEランクの依頼達成を報告をして、これでトータルEランクの依頼達成数が27となった。あとは討伐依頼も何か受けておかないとDランクにはなれないんだったっけか。今のままでもお金は稼げるし、特にランクを上げる必要性も感じないなぁ。
「そんじゃ帰るか」
「今日も疲れたー」
「そうだなぁ。今日も変なのに絡まれたし……」
宿へと帰ると看板娘のアーニャに出迎えられる。ゆっくり帰ってきたせいで、もう日も暮れている。
「あ、おかえりなさーい」
「ただいま」
「夕飯はどうします?」
「あー、いただくよ。二人分お願い」
「はーい。おかあさーん! 夕飯二人追加でー!」
今から外に出て食べるにはちょっと遅い時間だったのでアーニャにそう伝えると、食堂の奥に向かって叫んでいる。
「はいよー!」
向こうからも元気な声が返ってきた。
特にハズレでもないし、無難にいくには宿で飯を食うに限る。……と言えるほど異世界でご飯を食べたわけでもないけどね。
部屋に置いておく荷物もないため、そのまま食堂へと入って席に着く。しばらくすると肉多めの野菜炒めにスープと白パンが出てきた。うん、普通に美味しい。若干米が恋しいけど、わがままは言うまい。ってか米ってあるのかな、この世界。
「そういえばシュウさんとリオさんって、もう結婚の儀は済ませたんですか?」
「ん? 結婚の儀って?」
結婚式のこと? と思いながらもアーニャに聞いてみる。そういえば莉緒には結婚しようって言うだけ言ったけど、口だけになっちゃってるな。結婚指輪とかがこの世界にもあるかわからないけど、いい機会だから聞いてみようか。
「え? 知らないんですか?」
「あー、ちょっと田舎から出てきたもんで……。そういう儀式? があるんだ?」
「あ、はい。神殿で結婚の儀は執り行ってもらえますよ。いくらか寄付が必要ですけど、神様にお祈りすると、神様に夫婦と認められるんですって」
両手を胸元で握りしめ、憧れの眼差しで虚空を見つめるアーニャ。ちょっと自分の世界に入っているようだ。
「へー、神様か」
この世界に来るときに会った、白髭白髪の爺さんを思い出した。が、微妙に顔がおぼろげになっていていまいちはっきりとしない。さすがに四か月ちょっとくらいたつと忘れるのかな。
「お貴族様の場合だと、神様に夫婦と認められたときに、家名が夫婦で同じになってフルネームが変わるらしいよ」
「そうなんだ」
名前って言うことは鑑定で調べられる名前のことだろうか。そういや鑑定した情報ってどこからくるんだろうって思ってたけど、案外神様が情報を通知してるのかも。
であるならば、ここは男の俺から莉緒を誘うべきだな。うん。
「結婚の儀に必要な物って何かあったりする?」
なんだかソワソワしながら、莉緒が俺とアーニャとのやり取りを見守っている。
「特にありませんよー。事前に神殿へ予約を入れておくくらいかな? あ、でもお金のある人はドレスとか礼服を着てすごい綺麗なんです!」
なるほど、衣装かー。確かに服くらいはしっかりしておきたいかな。
「じゃあ衣装は新品でオーダーメイドしようか」
「うん!」
俺の言葉に莉緒がふにゃりと笑顔を浮かべる。必需品じゃないみたいだけど、結婚指輪も用意しようか。莉緒を驚かせたいけど、指のサイズがわからないなぁ……。うーん、どうしようか。
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