第14話 スキルマニア

 二日目からヴェルターさんのことはいつの間にか師匠と呼ぶようになったけど、四日ほどたった頃にちょっと疑問を覚え始めた。

 いろいろ教えてくれるのはいいんだけど、ちょっと手あたり次第だったのだ。


「次はこれで素振りしてみようか」


 木剣を素振りすること一時間ほど、ただの素振りなのになぜかコツがつかめてきたと思った時の師匠のセリフがこれだった。で、渡されたのはこれまた木でできた槍だ。


「えっ、剣はもういいんですか?」


 唐突な言葉に戸惑ったが、なぜか師匠がニヤニヤしてるので気になって聞いてみたら。


「おう、どうやらもう剣術スキルが生えたみたいだからな」


「はぁっ!?」


「いやさすが坊主だな。スキルが次々に生えること生えること。くくくく……、これはオレも知らないスキルに出会えるのも時間の問題か……。ある程度は既知のスキルを覚えさせたあとは……」


 槍を渡されたあとにブツブツと一人で呟きだす。そして何かの結果が師匠の中で出たんだろうか、こっちに視線を向けると次の訓練が始まった。


「いややっぱり槍は素振りではなく細かく教えてやろう。そっちのほうが早くスキルが生えるかもしれん」


 そう、師匠はスキルマニアだったのだ。




 一週間現在で師匠に生えたと言われたスキルはこれまでに九つ。剣術、槍術、短剣術、棒術、投擲術、格闘術、盾術に、土魔法と風魔法と空間認識だ。莉緒も火魔法、土魔法、風魔法と棒術のスキルを覚えたらしい。

 どうも俺の場合は最短三十分でスキルが生えるらしく、そのときは師匠が興奮していた。土魔法を覚えた時は、風呂を作ろうと決意したのは言うまでもない。


 四六時中、俺たちを鑑定してはニヤニヤする師匠に、俺たちもそろそろ慣れてきたころだ。最初は助けてくれたお礼をしなけりゃとか考えていたんだが、今ではどうでもよくなってきている。いや、感謝はしてるんだよ? 一応。


「そういえば師匠の鑑定って、使うと何がわかるんです?」


「あー、オレの場合は結構わかるぞ」


 好奇心から夕飯の時に聞いてみると、スキル以外にも名前、種族、職業から、HPやMP、筋力体力のようなものまでわかるらしい。


「だが鑑定を使う人間すべてがそこまで見えてるわけでもないらしい。名前しかわからなかったり、職業までしかわからなかったりいろいろだな」


「へぇ」


「おそらくだが鑑定にも等級があるんだろうとオレは考えている。魔法に初級、下級、といった等級がある通り、鑑定にもあってしかるべきだ。そもそも鑑定とは……」


 うへぇ、藪蛇だった。師匠のうんちくを聞き流しながらスープを啜るのだった。




「さてと、それじゃ行くか」


「「はい」」


 すでにここに来て二週間。今日は師匠と外へ狩りへ出かける日だ。今までずっと家の庭で活動していたから、外に出るのはここに来てから初めてだ。

 師匠が土魔法で生成した短剣を腰に差し、これまた師匠が倒した魔物の皮を鞣した鎧を着込み、そして師匠が偶然手に入れたというエンシェント赤竜レッドドラゴンの一枚鱗を使用した盾を背負っている。


 この短剣もなまくら鉄なら切り裂いてしまうし、なんでもありかよと師匠にツッコミを入れたのは記憶に新しい。


 もちろん莉緒も似たような装備だ。魔の森に棲息するエルダートレントで作った杖に、俺と同じ皮鎧と、小型ドラゴンの鱗がびっしりと張り付けられたローブだ。

 なんでも死蔵していた装備が異空間ボックスにいっぱいあるらしい。あ、異空間ボックスっていうのは、空間魔法で作る自分専用のアイテムボックスみたいなものだ。使い手になれば、時間停止ボックスや時間加速ボックスとか、何種類も使えるみたいなんだが。


 見た目よりも物が入る収納カバンというやつも存在するらしいが、師匠は持っていないらしい。まぁ自分一人だけなら異空間ボックスがあれば十分とのことだ。


 俺は主に接近戦を主体に、莉緒は後衛を主体にしていろいろと師匠から教わっている。ある程度形になったからということで、初の実戦を迎えたわけだ。


「うーん、ちょっと緊張するなぁ」


「大丈夫だって柊。後半あれだけ師匠の……、シゴキに耐えたんだから……」


 セリフの後半でなぜか目が死んだ魚のようになった莉緒に、俺も思わず遠い目をしてしまう。厳しくしたらスキルが生えやすいかな? って疑問に思ってしまった師匠は……。あぁもう思い出すのも辛い。忘れよう。


「強力な魔物が出るこの魔の森でも、師匠以上のやつはいないだろ」


「そうでもないぞ」


 楽観的に考えていたが師匠にバッサリと切られる。


「家周辺にはいないがな……。奥地へ行けばうじゃうじゃいるぞ。だがまぁ、今から向かうところは問題ないはずだ」


 マジですか。魔の森の奥って、そんな化け物がうじゃうじゃいるんですか。そんなところには絶対に行きたくないな。まぁ行く機会もないと思うけど。


「それはちょっと安心しました」


「ただまぁ、格上の相手を殺さないと生えないスキルもあるかもしれんな」


「「いやいやいやいや!」」


 師匠のこぼした言葉に二人で全力で否定する。師匠も敵わない魔物がいる場所なんて御免だ。せめて身の安全は確保しておきたい。


「くくく、とりあえず今は目的地へ向かうか。走るから全力でついてこい」


 そう一言だけ告げると、魔力を全身に纏って走り出す。


「いや、ちょっと、待ってくださいよ!」


 慌てて俺たちも後を追いかけるのだった。

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