第15話 初戦
必死についていく俺たちだけど、莉緒が一番苦しそうだ。後衛主体で俺よりも体力や俊敏が低いのだ。それでも俺よりも有り余る魔力を過剰に使って身体強化し、必死に師匠へと食らいついているのがわかる。
「もうちょっと、手加減って、ものを……!」
息も絶え絶えに呟くが、もちろん師匠にまでその声は聞こえない。むしろ師匠はギリギリのところを攻めてくる傾向にあるので、言うだけ無駄ではあるのだが。
「止まれ」
二分ほどノンストップで走り続けたとき、師匠が左腕を広げてストップをかけた。短時間とはいえ、鬱蒼と茂った森の中を全力で進むのは体力が削られる。
「……この先ですか?」
「はぁ、はぁ……」
大きく息を整えると師匠に確認する。莉緒は呼吸を整えるのでいっぱいいっぱいだ。
「ああ、まずは格下からだな。二人の連携を確認するのにいいだろう」
師匠の指す方へ意識を集中すると、確かに何かの気配が感じられる。師匠に教えられるまで取得していることを知らなかったが、気配察知スキルはきちんと仕事をしてくれているようだ。
「はい……。行ってきます」
風下になっていることを確認すると、慎重に敵へと近づく。
「あ、何かいるね」
まだ視界に入っていないが、莉緒も相手に気が付いたようだ。
莉緒と顔を見合わせて気合を入れる。木陰から向こう側を覗くと、でかい魔物が草を食んでいるのが見えた。
「あれは……」
魔の森に飛ばされた初日に襲われたウサギそっくりだった。しかし額から伸びる角は鋭いが、二本あるように見える。体高もなんか俺たちよりでかくね……?
「いや普通リベンジに上位種は選ばないよね……?」
俺にも生えてきた鑑定で相手を調べると、ジャイアントツインホーンラビットという名前が出てきた。まだ名前しか判別できないが、こいつみたいにジャイアントとかいう修飾語がついていると、上位種だとわかったりすることもある。しかもツインって。
「でもやることは変わらないよ」
莉緒が俺よりもやる気だ。
「柊を傷つけたウサギなんて滅べばいい」
むしろ憎しみすら籠ってませんかね莉緒さんや。
「どうどう、落ち着いて……」
「私は落ち着いてるわよ」
視線をウサギに固定したまま低い声で返事がくる。
「あ、うん。……まぁ冷静に行こうか」
「まずは私からね」
後衛の莉緒が牽制の魔法を放つ。杖を掲げると魔力を練って先端に集めて……。ってちょっと集まりすぎじゃね? ホントに落ち着いてる?
「ウインドカッター」
静かな声で放たれた十個の風の刃がウサギに殺到する。相手は危険に気が付いたのか顔を上げたが、迫る風の刃を避けることができずに細切れになる。
「……」
いつでも飛び出せるように準備はしてたけど、意味なかったな。……それにしてもグロい。師匠の狩ってきた魔物の解体とかは手伝ったりしたけど、実際に目の前で殺すところを見ると、ちょっと来るものがある。
だけどまぁ魔石はしっかり回収しないとな。
他に気配がないことを確認して細切れになった肉片へと近づく。腰の短剣を手に取ると、魔石をほじくりだした。
「さすがに楽勝すぎたか……。リベンジは必要だと思ってたが、調子に乗って鍛えすぎたな」
後ろから師匠の反省していない言葉が聞こえてくる。
俺自身のリベンジがまだできてないけどね。
「はぁ~」
若干青い顔をしていた莉緒が大きくため息をついている。
「大丈夫?」
「うん……。大丈夫。柊の仇は取ったから」
「あ、そう」
別に俺はウサギに殺されてはないんだけど。ピンピンしてるんですけど。ちょっと莉緒にウサギは見せない方がいいのかもしれない。
「向こうにもう一匹いるから、今度は坊主が仕留めてこい」
「え、あ、はい」
言われた方向に集中するけど、まったくもって気配は捉えられない。師匠の索敵範囲広すぎだろ。
「ウサギ……」
「莉緒。今度は俺がやるから」
目の色を変えた彼女を宥めつつ、今度は俺が先行する。五百メートルほど進むと、俺の索敵範囲にも入ってくるのがわかった。
「見つけた」
さっき莉緒が仕留めたやつと似た気配がする。おそらく同じ種類だろう。もうこのままの勢いでやってしまおう。
スピードを落とすことなく、むしろ接敵直前で上げると一気に接近する。手のひらを刺された恨みを込めるようにして右手に魔力を注ぎ込む。何事かと顔を上げたウサギの顎へと右拳をアッパー気味に叩き込んだところ、ウサギの頭部が爆散した。
「うげっ」
あまりの惨状に変な声が出てしまった。恨みを込めたぶん、力が入りすぎたんだろうか。ちょっと加減が難しいな……。師匠には基本的に何も通じないから、加減の必要がないんだよな。
「さすが柊ね」
「うむ。見事だ。これならちゃんと肉も食えそうだな」
だけど結果としては悪くはなかったようだ。自分たちで食料も確保できたことだし、良しとしよう。楽勝すぎたぶん、調子に乗らないようにしないとな……。
「初戦はこんなものか。では次のステップへと行こうか」
こうして俺たちの初戦闘は幕を下ろしたのだった。
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