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 突如ヒロコの腕の中に鎮座するこの憎たらしい猫は、私の留守中にどうやら庭に迷い込んできたらしかった。


「気づいたら私たちの部屋の庭にいたの。濡れてびしょびしょになって震えて小さくなっていて……きっと迷子だわ」


 いや、意図して入ってきたのではないか。


「母猫が近くにいると思ってしばらく離れて様子を見ていたのだけれど、どうも来なくて、どんどん弱っていくから見ていられなかったの」


 それで餌付けをして懐かれたという訳だ。


「まだ生まれて二、三ヵ月くらいかしら。見て、こんなに小さい」


 そもそも猫はこんなにも懐きやすい動物だったか。昔側室の女たちが飼っていたが、つんとした性格が多く、あまり人に媚びるような存在ではなかった。


 ヒロコは忙しそうにその猫の世話に明け暮れていた。

 冷えは体温調節ができない子猫に悪いからと言って、寝床に麻を敷き詰め、猫が自分たちの寝台に入ろうとしていれば快く受け入れ、大事に抱いて眠る。子猫は排泄がうまくできないからと乳を飲ませた後にその手伝いをする。乳だけでは栄養がとれないだろうと、他の栄養になるものを指につけて舐めさせる。


 極めつけは猫が夜鳴きをした時だ。

 ヒロコは猫の鳴き声に気づいて起きると、私が眠れないだろうと気を遣って昔使っていた自分の部屋に行ってしまうのだ。


「別に私は気にしない。ここで寝かせれば良いだろう」


 と言っても。


「ううん、一度鳴いちゃうとなかなか鳴き止まないから……あなたはゆっくり休んでいて」


 そう言って私の寝台から離れて行ってしまう。こちらは妻と過ごすのを楽しみにしていたというのに、私は何故か一人で寝台に横たわっている。

 一人になった寝台の上でぼうっと天井を仰いでいる自分の姿を思ったら、ひどく虚しくなった。何が悲しくて、私は一人で寝具を温めているのか。


 侍女に任せれば良いと進言しても、侍女だと嫌がってしまうらしく、結局この猫はヒロコにしか自分の世話を許さなかった。対してヒロコは満更でもない様子だ。

 ようやく近くにヒロコがいるという状況になっても、彼女の傍らには必ず猫がいて、彼女が口にする話題と言えば猫がこれをしたあれをしたの猫情報と来ている。


 なんて猫だ。

 黙って見ているとヒロコの夫が私からその猫に変わったかのようだ。


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